季節の織り糸

二重廻 12月14日

「二重廻」

12月14日、雪が舞い散る冷たい空気の中、シモーヌ・ド・ノリエ男爵令嬢は、凍りつくような風を感じながら、故郷の広大な庭園を歩いていた。庭に敷き詰められた霜が足元を冷たく刺し、枯れた野草が静寂の中で風に揺れている。遠くには、冬の濤（なみ）が海岸に砕ける音が響き、彼女の心にもその音がどこか深く響いていた。

シモーヌは、寒い空気の中で、何度もマフラーを首に巻き直しながら、ふと立ち止まった。彼女の目の前には、枯れた園の中で一羽のかいつぶりが日向ぼこをしている姿が見えた。その小さな鳥が太陽の光を浴びる姿を見て、シモーヌは心を温かく感じた。どんなに寒くても、生命はどこかで力強く息づいている。

その日、シモーヌはまた一つの決断をしようとしていた。それは、彼女が心の中でずっと抱えていた不安と期待の間で揺れ動いていた思いだった。

数週間前、彼女の家族が招待したパーティーに、ある男性が現れた。彼の名前はロラン・ド・ラ・ヴァル男爵。若くして成功を収めた実業家で、噂では非常に魅力的で、世間の女性たちの注目を集めていた。その出会いが、シモーヌの心に微かな波紋を広げたのだ。

「ロランさん…」シモーヌは思い出して口の中でその名前をつぶやくと、冷たい風がその声をかき消していった。

彼との出会いは、まるで冬の雪が降り積もるように、ゆっくりと心の中に積もっていった。最初はただの上品な会話と挨拶に過ぎなかった。しかし、彼の目を見たとき、シモーヌの心は静かに震えた。それは、彼の瞳に隠された何か深いものに触れたような感覚だった。彼の存在は、まるで静かな海のようでありながら、その内に激しい波を秘めているようだった。

その後、何度か手紙のやり取りをするうちに、シモーヌは彼に対して次第に強く惹かれていった。しかし、彼女は同時に、自分の家族の期待や、社会的な立場に対する責任にも圧迫されていた。ロランのような男性と結びつくことが果たして正しい選択なのか、彼女は迷い続けていた。

「でも…彼は本当に私を理解してくれるのでしょうか？」シモーヌは自分に問いかける。家族の期待に応え、他の貴族たちと同じような結婚をするべきなのか、それとも自分の心に従うべきなのか。その答えを見つけることができず、彼女は心の中で雪が降り積もるような静かな不安を感じていた。

その日の午後、シモーヌは庭園を歩きながら、再びロランのことを考えていた。彼女の歩みがゆっくりと進む中、遠くでカモシカが雪の中に現れるのを見つけた。その優雅に動く姿に心を奪われながら、シモーヌはふと足を止める。

「どうして、私はこんなにも不安なのだろう…」彼女は、冬の雪を見つめながら、再び自分に問いかけた。そのとき、彼女の耳に聞こえてきたのは、かつてロランから送られてきた手紙の言葉だった。

「シモーヌ、私はあなたがどんなに美しく、聡明であっても、あなたの内面を知りたくて仕方がない。あなたが感じる孤独や不安、あなたの隠された世界に触れてみたい。あなたのために、私はすべてを捧げる覚悟だ。」

その言葉が、シモーヌの胸に深く刻まれていた。彼女は、ロランが本当に自分を理解しようとしていることを感じていた。そして、その気持ちに答えたいと思っていた。だが、同時に彼女はまだ自分の心の中にある不安をどうにかしなければならなかった。

その晩、シモーヌは再びロランに手紙を書いた。そこには、自分の心の中で揺れ動く思いと、彼への真摯な想いが綴られていた。彼女は心を込めて、何度も何度も言葉を選びながら、手紙を書き終えた。

そして、手紙を郵便箱に入れると、彼女は深く息を吸い込み、胸の奥で決意を固めた。今までの自分を越え、彼と向き合う覚悟を決めたのだ。

12月14日の夕暮れ、シモーヌ・ド・ノリエ男爵令嬢は、寒い空の下で新しい一歩を踏み出すことを決意した。その一歩は、雪の中を歩むように冷たく、そして力強かった。彼女の心に抱えた不安は、これからどう変わっていくのだろうか。

終わり


12月14日

海　鼠

水　鳥

枯　野

冬の濤

冬青草

刈　田

マフラー

かいつぶり

日向ぼこ

雪

枯　園

かもしか

雪起し

海鼠腸

マフラー

十二月

冬紅葉

二重廻