季節の織り糸

冬の鴎と枯野の中で

冬の鴎と枯野の中で

12月13日。冷たい北風が枯野を揺らし、冬の寒さが一層厳しく感じられる日だった。村の外れにある小さな家で、アリスは冬帽子を深くかぶり、手袋をはめて、外の寒さに立ち向かっていた。街の中心では、神迎えの祭りが盛大に開かれていたが、アリスは一人、屋外で過ごすことを選んだ。

火の見が遠くで見守る中、彼女の手は自然に味噌搗きを始めた。暖かい鍋からは、雑炊の香りが立ち上がり、アリスはその香りに少しだけ心を落ち着かせた。ここにいると、昔の恋人との思い出が甦ってくる。

彼、エドワードはかつてアリスの心の中にあった、冬鴎のような存在だった。二人は若かった頃、冬の枯野でよく会っては、野原を駆け回っていた。エドワードの手は常に暖かく、彼の声は冷たい空気の中でさえ、温もりを感じさせてくれるものだった。しかし、その頃、アリスは彼に対して明確な気持ちを持っていたわけではなかった。ただの友人として、共に過ごす日々が心地よく、冬ざれの空気も気にならなかった。

だが、時が経つにつれて、彼の視線は変わり、アリスもそれに気づくようになった。彼がすぐに言葉にできなかったことを、彼女は無意識に感じ取った。二人の関係は次第に深まり、心が通じ合ったその瞬間、アリスは気づいた。彼は自分の心に宿った冬の温もりだった。

ところが、ある日のこと、エドワードは突然、アリスを遠くの王国に嫁がせるために帰国すると告げた。彼の決断は、まるで荒れ狂う北風のように、アリスの心を打ち砕いた。エドワードは涙を流さず、ただ静かに別れを告げ、アリスはその背中を見送ることしかできなかった。

時は流れ、アリスは今や村の一員として静かな日々を送っているが、心の奥に彼の存在が消えることはなかった。今日もまた、彼のことを思いながら味噌搗きの作業をしていた。冬鴎が遠くで鳴く声が、アリスにとってはあの日の記憶を呼び起こす。

その頃、エドワードもまた、アリスを忘れることなく過ごしていた。彼は王国の任務に就き、新たな婚約者を持ったが、どこかでアリスを感じていた。彼が戻る日を、心のどこかで待ち続けている自分に気づきながらも、彼はその思いを抑え込んでいた。

ある冬の日、アリスが水草の紅葉を眺めていると、ふと足元に一羽の冬鴎が舞い降りた。その姿に、かつてエドワードと共に過ごした日々が蘇る。彼女はその鴎を見つめながら、エドワードとの再会を夢見ることをやめていた。過去の思い出に囚われることなく、新しい人生を歩む決意を固めたからだ。

その夜、アリスの家の暖炉には、温かい火が焚かれていた。雑炊を食べ終え、手袋を脱いだアリスは、ふと窓の外を見つめる。外には、雪が静かに降り積もっている。

そして、その雪の中に、アリスはもう一度エドワードの姿を見つける。まるでそれは彼が今も自分の心の中に生き続けているかのようだった。彼の温もりを感じ、アリスはゆっくりと立ち上がり、窓を開けて外に向かって一歩踏み出す。

新しい明日へ向かって。