季節の織り糸

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臘八の花 12月9日

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『臘八の花』

臘八(ろうはち)の朝、冷たい空気が街を覆う中、佳乃(よしの)はいつも通り祖母の家に向かって歩いていた。京都の冬の静けさの中、石蕗(つわぶき)の花が黄色い光を放っているのが目に入る。その花を見るたび、彼女は10年前の臘八の日を思い出していた。

あの日、佳乃は高校の放課後、祖母の家の庭で小さな石蕗の花を摘んでいた。すると、隣家の庭で一人の少年が庭掃除をしているのが目に入った。名前は祐介(ゆうすけ)。隣に引っ越してきたばかりの高校生で、どこか孤独を感じさせる少年だった。

「こんにちは。」

佳乃が声をかけると、祐介は驚いたように顔を上げた。

「こんにちは。」

彼の声は低く、どこかぎこちなかった。それでも二人は少しずつ話し始め、やがて毎日庭越しに言葉を交わすようになった。

祐介の家族は東京から移り住んできたが、彼はどこか周囲と馴染めない様子だった。そんな彼に、佳乃は庭の花や季節の移り変わりについて話した。祐介は最初は聞くだけだったが、次第に彼自身の話もするようになった。

「臘八って、特別な日なんだね。」

佳乃が話すと、祐介は小さく頷いた。

「そう聞いたけど、詳しくは知らない。でも、この時期の寒さは不思議と好きだ。」

その言葉に、佳乃は微笑んだ。

臘八の頃、二人は一緒に祖母の家で抹茶を飲む習慣を始めた。祖母は彼の存在を歓迎し、二人が並んでいるのを見ると嬉しそうに笑っていた。

「佳乃、祐介くん。冬の花って、春や夏とは違う凛とした美しさがあるね。二人もそんな風に育っていくのかもしれないね。」

祖母のその言葉に、二人は照れくさそうに笑った。

高校卒業後、祐介は東京の大学に進学し、佳乃も地元の専門学校に通うことになった。二人は遠距離になりながらも、手紙や電話で連絡を取り合った。しかし時間が経つにつれ、お互いの生活の違いが大きくなり、連絡は次第に途絶えていった。

そして、祐介から最後に届いた手紙にはこう書かれていた。

「僕は新しい世界に飛び込んで、自分の道を探してみることにした。佳乃も自分の幸せを見つけてほしい。」

佳乃は涙を流しながらその手紙をしまった。そして、祐介が臘八に好きだった石蕗の花を見て、彼を思い出す日々を送るようになった。

それから10年。佳乃は祖母の家を守りながら、地元の図書館で働いていた。日々の穏やかな生活の中で、祐介のことは心の中にそっとしまっていた。

臘八の日、佳乃は祖母の庭の石蕗の花を摘み、仏壇に供えた。そのとき、玄関の方から声がした。

「佳乃さん、久しぶり。」

振り向くと、そこに立っていたのは祐介だった。少し痩せた顔、でもその目には昔と同じ優しさが宿っていた。

「祐介…どうしてここに?」

「ずっと戻りたいと思っていたんだ。でも、勇気が出なくて。それでも臘八の日には、やっぱり君に会いたくなる。」

佳乃は胸が熱くなった。

「10年も経ったのに、まだ覚えていてくれたの?」

祐介は微笑んだ。

「忘れるわけないよ。あの頃も今も、君のことが好きだから。」

その言葉に、佳乃は泣きながら笑った。そして二人は再び祖母の家で抹茶を飲みながら、10年分の話をした。

石蕗の花が咲く庭で、二人の新しい物語が始まった。


12月9日



木 枯

冬木立



大 綿

枯 蓮

水涸る

石蕗の花

黄 落



暖 冬

根深汁

目 貼

石蕗の花

根木打

冬 木

冬紅葉

漱石忌

臘 八
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