季節の織り糸

神の留守 12月6日

神の留守

冬の夕焼けが、ロシアの片田舎の雪原を黄金色に染め上げていた。十二月、吹き荒れる凩が森を駆け抜け、枯れた蓮の沼地に微かな音を立てる。エレン・ヴァン・ヘルマンは古びたもんぺを身にまといながら、小さな木製の窓から外を見つめていた。

彼女はこの地で孤独な暮らしをしていた。両親が亡くなり、牧師の父から譲り受けた古い家を守りながら、細々とした暮らしを続けている。かつて公爵家の養女として迎えられるはずだったが、家の没落とともにすべてが消え去った。

「湯豆腐でも作るか。」
彼女は独り言をつぶやき、かじかんだ手で火を起こす。藪柑子の葉で飾られたテーブルの上には、かつて父が大事にしていた古びた聖書が置かれている。それは「神が留守にしているときでも、祈りは届く」という父の教えを思い出させるものだった。

その時、外から低い音が聞こえた。馬車の軋む音だ。

彼女は驚いて扉を開けた。外には見覚えのある男性が立っていた。アルノ・レイナース。かつて公爵家の家令で、彼女の幼い頃からの友人だった男だ。

「エレン。」
彼は冷たい風の中でも穏やかな声で呼びかけた。その声には長旅の疲れが滲んでいる。

「どうしてここに？」
エレンは震える声で尋ねた。

「君に伝えたいことがあって。けれど、寒さが骨身に染みる。家の中で話させてくれるかい？」

彼の頬に赤みを帯びた雪が溶けていた。彼女はためらいながらも彼を家の中へ招き入れ、湯豆腐の鍋を温めなおした。

二人は暖炉のそばで向き合った。毛糸を編みかけたままのエレンの手元が、微かに震えているのをアルノは見逃さなかった。

「エレン、君はまだここで一人で過ごしているのか？」
「ええ。それ以外に選択肢なんてないもの。」

彼女の言葉にアルノは眉をひそめた。
「君にはもっと暖かい場所がふさわしい。神が留守の間でも、僕は君を守りたいと思っている。」

「アルノ…」
彼女は驚きとともに彼の瞳を見つめた。彼の瞳には、長い間秘めていた感情が浮かんでいた。

「僕は、ずっと君を想っていた。どんなに遠くにいても、君が幸せでいてほしいと祈っていた。でも、君がここで凩に耐えながら一人でいることを知ったとき、もう祈るだけでは足りないと思った。」

アルノの言葉は静かだが、心に響く確かなものだった。エレンの目に、涙が浮かぶ。

「私なんて、ただの孤独な女よ。あなたがそんなふうに思う資格なんてない。」

「資格なんていらない。僕は君を選んだ。神がいなくても、君がいるだけで僕の世界は救われるんだ。」

その瞬間、エレンの心の中で何かが解けた。孤独の中で閉じ込めていた想いが、暖炉の火のようにじんわりと胸を温める。

エレンは編みかけの毛糸をそっと置き、アルノの手に触れた。
「ありがとう、アルノ。」

外では雪が静かに降り積もり、凩は遠ざかっていく。神の留守を嘆くのではなく、人の温もりを信じる――それが、二人の新しい祈りの形となった。

暖炉の火が揺れる中、冬の夜は静かに更けていく。


12月6日

時　雨

凩

枇杷の花

十二月

綿　虫

枯　蓮

冬夕焼

枯　萩

鷹

雪

氷下魚

冬夕焼

藪柑子

年木樵

毛糸編む

湯豆腐

冬

もんぺ

神の留守