季節の織り糸

春秋花壇

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どんぐり 11月4日

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どんぐり

秋の深まりとともに、山々は色とりどりの錦に包まれていった。もみじの葉が赤や黄金色に染まり、霧が山肌にかかると、その景色はまるで夢のようだった。そんな景色を眺めながら、ひとりの青年が山道を歩いていた。彼の名は春斗。都会から遠く離れたこの山里に、秋の訪れを感じにやってきた。

春斗は都会の喧騒から逃れ、この秋の静けさを感じるために、数年前から毎年、秋の初めにこの山に足を運んでいた。毎年同じ季節に訪れることが、彼にとって一つの儀式のようになっていた。自然の中で過ごすことで、都会での忙しさや悩みを忘れ、心を整えることができるのだ。

山道を進みながら、春斗は足元に落ちたどんぐりを見つけた。どんぐりは、秋の風物詩として昔から親しまれている。木々の間からふわりと吹く風に乗って、どんぐりが軽やかに転がるのを見ていると、ふと子供の頃を思い出す。あの頃、祖父と一緒に山へ登り、どんぐりを拾っては家に持ち帰り、秋の味覚として楽しんだ日々。

春斗は足を止めて、落ちていたどんぐりを拾い上げた。それは、まだ青みが残っている小さなどんぐりだった。手のひらに乗せてみると、その小さな丸い形が温かく、懐かしい気持ちが胸に広がった。彼はそれをそっとポケットに入れ、再び歩き始めた。

霧が立ち込め、辺りが少しぼんやりとしてきた。秋の霧は、山の空気を澄ませ、静けさを一層深める。春斗は歩くペースをゆっくりとし、霧に包まれた山道を進んだ。そのうちに、足元の苔むした道に、もう一つの秋の兆しを見つけた。それは、小さな茸だった。

茸を見つけた春斗は、足を止め、じっとその姿を観察した。茸はまるで自然の芸術品のように、土の中から顔を出していた。秋の訪れを感じるたびに、春斗はいつも思い出す。祖父と一緒に山で茸を採っては、家に持ち帰って煮込んで食べたことを。茸汁(茸鍋)は、家族みんなで囲んで食べる秋の味覚の一つであり、春斗にとっては、懐かしくも温かい思い出が詰まった料理だった。

「今年も秋が来たな。」春斗はしみじみと呟いた。

その言葉に返事をするかのように、どこからか鴫(しぎ)の鳴き声が響いてきた。山の中でひっそりと生きる動物たちの存在を感じると、春斗は自然と心が落ち着くのを感じた。都会では絶対に味わえない、これが山の静けさだ。彼は一度深呼吸をして、足を前に進めた。

少し歩いた先で、彼は小さな村にたどり着いた。その村は、秋の風物詩が色濃く残る場所だった。民家の前には、ひとつひとつ丁寧に刈られた蕎麦の畑が広がり、爽やかな空気の中で、蕎麦の実がゆっくりと収穫されている。

村の人々は、秋になると必ず集まって、収穫を祝い、共に食事をするという風習があった。春斗はその風景を見ていると、何か温かい気持ちが心に湧き上がってきた。都市生活では味わえない、この人々の繋がりと温かさ。そんな秋の風景に包まれて、春斗は少しだけ身を休めることにした。

村の小さな茶屋に立ち寄り、店主に勧められた茶を飲みながら、春斗は周囲の景色を楽しんだ。茶屋の前の木には、榎の実が鈴なりに実をつけ、風に揺れてはその実が地面に落ちていた。その様子を見ながら、春斗はふと気づく。

「秋が深まっている。」そのことを、ただ静かに感じ取ることができた。

店主が、秋の味覚を一つ、持ってきてくれた。それは、山で採れた栗だった。栗をひとつ、口に運びながら、春斗はまたあの頃のことを思い出した。祖父と一緒に食べた栗の味。秋の匂い。手にしたどんぐりも、まるでその思い出を呼び覚ますようだった。

「秋は、いつもすぐに過ぎていく。」春斗は心の中でつぶやいた。秋の色が深まり、山々がさらに美しく染まるとともに、彼の心もまた、静かに穏やかになっていった。どんぐりが転がる音、霧に包まれた山道、そして秋の空気。すべてが心地よい。

秋惜しむ気持ちを胸に、春斗は再び歩き出した。彼の背後で、山々が山の色を深め、夕陽が山肌を黄金色に染めていった。秋の一日が、静かに幕を閉じようとしている。


11月4日



夕 霧

もみぢ



秋深し

茸汁(茸鍋)

爽やか

小 春

秋惜しむ

菱 喰

山粧う

どんぐり





野山の錦

榎の実





蕎麦刈

どんぐり
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