季節の織り糸

冬もみぢ

『冬もみぢ』

12月の冷たい風が吹き、山間の街に初雪が降り始めると、街は一層静けさを増していった。街角に佇む木々の葉はすでに色づき、燃えるような赤や橙の紅葉が寒空の下で美しく揺れていた。冬の訪れを感じるこの季節、私はある一人の男性を思い出す。

「冬もみぢ。」母が言った言葉が、今でも私の耳に残っている。冬の寒さが深まると、紅葉がいっそう輝く。それは、どこか切なさを帯びた美しさがあったからだろう。

私はその言葉を胸に抱きながら、雪の降る街を歩いていた。寒さに震えながらも、どこか心が温かくなるような気がしていた。それは、あの人との思い出が心に灯をともしているからだ。

数ヶ月前のことだ。私がまだ学生だった頃、ある冬の日に偶然出会った男性がいた。名前は坂本悠介。彼は一見冷静で無口な人物で、どこか距離を感じさせる雰囲気を持っていた。しかし、ある晩、街のカフェで偶然再会し、それから私たちの関係は少しずつ変わり始めた。

その日、私は雪が降りしきる中で一人、カフェに足を運んだ。暖かな店内で、窓の外を見つめながらコーヒーを飲んでいたその時、ふと背後で聞き覚えのある声がした。

「ここで会うとは、奇遇だな。」

振り返ると、そこには悠介が立っていた。私たちは前にも偶然会ったことがあったが、その後はあまり顔を合わせることがなかった。彼はその日、何気なく隣の席に座り、いつものように静かな空気をまといながら、私と向き合っていた。

「本当に偶然ね。」私は少し驚きながらも微笑んだ。

「雪が降っていると、どこか寂しい気持ちになるよな。」悠介はぼんやりと窓の外を見つめながら言った。その一言に、私は何かしらの共感を覚えた。彼が見せる静かな内面に、私も少しずつ引き込まれていった。

「雪が降ると、思い出すのよ。」私は思わず口にしていた。知らず知らずのうちに、悠介に心を開いていた自分に気づく。

「思い出？」悠介は視線を私に向けた。

「うん、家族との思い出。それから…、冬の紅葉も。」私は恥ずかしげに笑いながら、昔のことを思い出していた。

「冬もみぢ、か。」悠介は静かに頷いた。「紅葉が、寒さで色づく様子がきれいだ。」

その言葉に私は驚いた。彼がそんなことを言うなんて、まるで私の心を見透かしているようだったからだ。雪が降るこの季節に、二人で過ごす時間がこんなにも心地よいものだとは思っていなかった。

その後、私たちは何度かカフェで会うようになり、少しずつ関係を深めていった。彼の心の中に何か深い悩みがあることに気づいたのは、ほんの数回の会話の中でだった。だが、私はそれを無理に尋ねることはしなかった。悠介が語りたくなった時に、聞けばいい。それまでの時間を大切にしたいと思った。

ある日、冬の紅葉が最も美しい時期が訪れた。私は悠介に誘われ、近くの山へと足を運んだ。道端の木々が色づき、山全体が紅く染まる景色は、言葉にできないほど美しかった。

「ここが一番きれいだと思う。」悠介が静かに言った。彼の言葉に、私は心から同意した。

「本当にきれい…」私は声を漏らし、紅葉の中に溶け込むような気持ちになった。ふと悠介を見上げると、彼の目には紅葉と同じように暖かい光が宿っているように感じた。

「私は、君とこうして過ごせることが嬉しい。」悠介が言ったその瞬間、私は心の中で確信を持った。彼と一緒にいると、何もかもが温かく、安らかに感じる。彼の静かな眼差しが、私にとってどれほど大きな支えになっているのかを、改めて感じた。

「私も嬉しい。」私はそっと彼の手を握った。

その手は冷たく、しかし温かくもあった。まるで冬の冷気が二人を包み込んでいるようで、私はその中で彼とのつながりを感じていた。冬の寒さが深まる中で、紅葉の温かさが心に広がり、私たちの関係はより深いものになっていった。

「冬もみぢ…」悠介の声が、再び私の耳に届いた。

「うん。」私は答えた。彼と一緒に見る紅葉は、冬の寒さの中でも心温まるものだった。そしてその時、私の心に確かに誓ったのだった。この冬が終わるころ、きっと二人の関係も新しい段階に進んでいるだろうと。

紅葉の色がゆっくりと変わり、雪が降り積もるこの季節。私たちは共に歩んでいくことを、心から願っていた。