季節の織り糸

春秋花壇

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小春の風 11月28日

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小春の風

11月の終わり。空は重く、どこか落ち着いた冷たさを帯びている。冬の足音がひたひたと近づいてくる中、村の風景は少しずつ色づき始めていた。

小春が訪れるたびに、村は静けさに包まれる。寒さがまだ肌に染み込まないうちに、柿の実は色づき、枝からぽたりと落ちることもある。その落葉の上を踏みしめながら、私は家路を急いだ。道端に生える石蕗(つわぶき)の花が、陽の光を受けて鮮やかな黄色を放っている。その色彩に目を奪われる度、冬が来ることへの少しの寂しさとともに、新しい季節を迎える準備ができていく。

家に戻ると、母が台所で音を立てて何かを煮込んでいた。鍋の中からは猪肉(いのしし)と野菜がひとしきり煮えた匂いが立ち上り、その香りはもう冬の訪れを告げるものだった。

「おかえり。外、少し寒かったでしょ?」母の声が温かく響く。

「うん、寒くなってきたね。でも、この匂いがすると思わず体が温まるよ。」私は母の側に寄り、火を囲むように座った。母が作る猪鍋は、村の冬の定番だ。

「冬紅葉、見に行かない? あの辺、もう色づいてきたみたいよ。」母は鍋の火を軽く見守りながら言った。

その提案に、私は思わず顔を上げた。紅葉はもうすぐそのピークを迎え、山々は紅や黄色に染まる。秋から冬への移ろいを感じる瞬間だ。

「いいね。今日は早めに行ってみようか。」私は母と一緒に出かける準備を整え、山道を歩きながらゆっくりと空気を吸い込んだ。ひんやりとした風が肌を撫でる。街路樹の葉も、黄色と赤に染まっていた。落葉が足元でさくさくと音を立てる度、私は冬の訪れを実感していた。

山道を少し登ると、木々の間に色とりどりの葉が舞い散っている景色が広がった。冬紅葉の名の通り、紅葉した木々の間から覗く寒空が、これから訪れる季節を物語っているようだった。

「こんな風景、いいよね。」母はしばし、歩みを止めて息を呑んだ。

私はうなずきながら、周りの景色に目をやる。石蕗の花のように地面にしっかり根を張る植物や、黄落した葉が風に舞う様子を見ていると、冬が来ることへの予感が胸を締め付ける。しかし、その中で見つける小さな命や色は、どこか希望を与えてくれる。

「そろそろ時雨が降りそうだね。」母が空を見上げてつぶやいた。

確かに、遠くに暗い雲が広がり、時折風が強くなる。時雨(しぐれ)が降る予兆だ。雨が降る前に家に戻ろうと、私たちは足早に山道を下りた。

家に戻ると、母はいつものように生姜湯を作ってくれた。寒さが身体にしみる中、その温かい湯気に包まれると、ほっと心が落ち着く。

「寒い日にはこれが一番だよね。」私は湯気を立てるカップを手に取った。

「そうね、体が温まるから。」母は笑顔を見せ、少し寂しそうに言った。「でも、もうすぐ本格的な冬が来るから、気をつけてね。」

私は母の言葉を胸に、湯を飲み干した。窓の外では、時雨が静かに降り始めていた。雨音が心地よく響き、落ち着いた気持ちで過ごす冬の夜が、少しずつ訪れつつあるのを感じていた。

その日、村では泥鰌(どじょう)を掘る人々も見かけた。泥鰌掘りは冬の前の準備として、昔から続く伝統だ。泥の中から慎重に掘り出された泥鰌は、冬の食卓に欠かせない栄養源となる。

「こうして少しずつ、冬がやってくるのね。」私は窓の外の景色を見つめながら、母と静かな時間を過ごしていた。

そして、ふと思い出す。朴の木の落葉を掃除していたとき、母が言った言葉が心に残っている。

「人生は、いつも落ち葉のように過ぎていく。だけど、その落ち葉が積もってこそ、春の土になるんだ。」

その言葉に込められた意味を、私は今、少しずつ理解し始めていた。

冬の寒さが来ても、春はまた必ず訪れる。たとえどんなに厳しい季節が来ても、それが次の命のための準備となり、次の希望を育む土になるのだと、感じることができた。

そして、夜の帳が下りると、母が作ってくれた根深汁を食べながら、私は小春の温もりを胸に刻み、静かに眠りに就いた。

紅葉も、落葉も、すべては移ろう季節の一部に過ぎない。それでも、その一瞬一瞬が、私の中で生き続けているのだと。


11月28日

小 春

柿落葉

石蕗の花

冬紅葉

落 葉

暮早し

猪 鍋

冬 日

黄 落

火消壺

時 雨



時 雨

泥鰌掘る

朴落葉

根深汁

小 春

生姜湯

紅 葉
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