季節の織り糸

冷たい足元、温かい思い

「冷たい足元、温かい思い」

11月25日、東京は朝から冷え込みが厳しかった。窓の外には、曇り空と薄い霧が立ち込め、秋から冬への移ろいを感じさせる。気温は8度。コートを羽織るにはまだ早いけれど、足元からじわじわと冷えが忍び寄るような、そんな一日だった。

僕は、デスクに向かって小説を書いていた。パソコンの画面に目を凝らし、指先でキーボードを叩く。最初の一行、次の一行、少しずつ文章が形になっていく。執筆に没頭していると、時間が経つのも忘れてしまう。けれど、じっと座っていると、どうしても体のあちこちが冷えてきてしまう。特に足元がひんやりとし、痛みのようなものさえ感じ始めた。

「足がじんじんするな…」

そう呟きながら、僕は椅子に座ったまま足を動かしてみる。けれど、足の指先はもう冷たくて、あまり意味がない。物理的な冷えだけでなく、どこか心の中でも、少しずつ寒さを感じているような気がした。何か温かいものが欲しい。温もりを感じたくて仕方なかった。

思わず立ち上がって、押し入れの中から電気毛布を引っ張り出した。薄手の毛布に手を伸ばして、コンセントに差し込む。スイッチを入れると、すぐにふわっとした温かさが広がってきた。それは、まるで暖炉の前に座っているような、懐かしく安心感のある温もりだった。しばらくそのまま、電気毛布の上に足を乗せる。

その瞬間、足の冷えが徐々に解けていくのを感じた。指先が動き、血液が巡り、温かさが広がっていく。僕はその感覚にしばらく身を任せていた。

けれど、その間にもふと、気づくことがあった。僕は小説を書いていたけれど、心の中でどこかぼんやりとした空白が広がっていた。どうしても浮かばない言葉、考えがまとまらない感覚がある。足元の冷えを感じたのと同じように、心の中でも冷えが進んでいた。

「これじゃ、ダメだ」

僕は電気毛布から足を引き抜き、立ち上がる。机の前に座っているだけでは、何も進まない気がした。部屋の中をゆっくり歩きながら、自分の心の中を感じ取ってみる。何かが足りない。何か、僕に欠けているものがある気がしてならない。

その時、ふと窓の外を見ると、少しずつ夕暮れが迫ってきていた。薄い灰色の空から、微かなオレンジ色が差し込んできて、部屋の中に温かな光を投げかけていた。まるで、足元から温もりが広がっていくように、その光が心に届くような気がした。

「そうだ…」

ふと、思いついた。僕が今感じている冷たさや、空虚さのようなもの。それは、ただの体温の問題だけではなく、もっと深い部分に関わっているのかもしれない。生活の中で温かさを感じられなくなっていたのは、自分が何か大切なことを見失っているからだろう。小説を書いているというのに、自分自身が冷たくなっているのでは、書くべき言葉は見つからないだろう。

そこで、もう一度机の前に座る。そして、手にしたペンを取る。画面の前に目を向けてみたものの、まず思ったのは「どうしてこうも冷たくなってしまったんだろう？」ということだった。

電気毛布を使って、暖かさを感じながら心を落ち着けて、僕は改めて書き始めた。これまでの物語の枠にとらわれず、心の奥から湧き上がる言葉をそのまま吐き出してみる。流れに任せ、次々に文章を紡いでいく。時折手が止まることもあったが、そんな時には深呼吸をして、再び手を動かす。

書くことが、少しずつ楽しくなっていった。冷えた体が温まるように、冷えた心も温かくなり始めた。足元だけでなく、心の中まで温かくなったと感じた。

夕暮れの光が少しずつ強くなり、空が深い青へと変わる中で、僕は書き続けた。冷えた体を温めるだけでなく、心の中の温もりを取り戻すために。こうして、また一つ、物語が生まれていく。

その晩、外は冷たい風が吹いていたが、部屋の中は温かさに包まれていた。電気毛布が提供する一時的な温もりが、僕の手を取り、心に届くように。少しずつ、温かさを広げて、今夜もまた、小説は進んでいく。