季節の織り糸

春秋花壇

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初冬の風 11月21日

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初冬の風

11月21日、神有月も終わりを告げ、季節は初冬へと足早に進んでいた。村では、毎年恒例の波郷忌が行われており、村人たちはその日を静かに過ごしていた。波郷忌は、かつてこの村で詩を詠み続けたという伝説的な人物を追悼する日であり、村の広場では詩を詠み、静かなひとときを楽しむ人々の姿が見られる。

私はその日も、落ち葉が舞い散る小道を歩いていた。秋桜がまだ咲き誇っているが、その花もすでにその時の終わりを告げるように風に揺れている。葉の色も、黄色や赤に染まり、晩秋の香りを感じさせる。

「そろそろ大根を干さないと、寒さが進んでしまうね」と、近所のおばさんが言った。大根の収穫が終わり、今は干して保存する季節がやってきていた。おばさんの手は慣れたもので、ひとつひとつ丁寧に並べていく。

「今年はどんな冬になるんだろう」と、私はふと考える。空気は冷たくなり、日が短くなり始めていた。短日が進む中、夕方の時間がどんどん早く来るようになった。

その夜、家に帰ると、台所から香りが漂ってきた。母が菊を使って煮物を作っているようだ。菊の花は、秋の風物詩としてよく食卓に並ぶもので、その香りが部屋中に広がっていく。

「二の酉の日も近いな」と父が言った。酉の市の祭りが近づくと、街は賑やかになる。しかし、今年は特に寒く、風巻(しまき)が強く吹いていた。冷たい風が家の中にまで感じられ、私は思わず肩をすくめる。

風巻は、冬の訪れを感じさせる風物詩だ。木々が枝を大きく揺らし、村の屋根を叩く音が響く。そんな中、私は風が冷たくなるたびに、村の人々がこれからの寒さに備えるためにどれほどの準備をしているかを思い浮かべる。

「今日は甲羅酒でも飲むか?」と父が言いながら、台所で蟹をさばき始めた。ずわい蟹の甲羅酒は、寒さを凌ぐための伝統的な一品だ。蟹の甲羅に酒を注ぎ、暖かい香りが立ち上る。私はその香りに誘われるように席に着いた。

母は、手際よく皿を並べ、準備が整うと、食卓に蟹の甲羅酒を並べた。家族みんなでその温かい一杯を分け合う。寒さに震える手を温めるその一杯は、何よりもほっとするひとときだった。

「最近、時雨雲が見えるようになったな」と、父が窓の外を見ながらつぶやいた。時雨雲が空に浮かび、ひとしきり降った後にまた晴れるという、秋の終わりと冬の始まりに見られる天気だ。時雨雲は、気温が急激に下がり、少しだけ湿った空気が漂っているのを感じさせる。

私たちが食事を終える頃、外では冷たい雨が降り始め、雁の群れが南へ向かって飛んでいった。雁の飛ぶ方向は、これからの冬の寒さを告げるように感じられた。空を見上げると、雁が形を変えて飛んでいくのが見え、その姿に私は何故か胸が締めつけられるような思いを抱く。

「雁が南へ帰る季節だな」と母が言うと、父も静かに頷いた。冬の到来を感じさせるその瞬間、私は心の中で新しい季節を迎える準備をしていた。冬の寒さは決して悪いものではない。冬が来るからこそ、春の訪れが待ち遠しくなるのだ。

その日、私は母と一緒に布団を敷きながら、外で降り続く雨の音を聞いていた。雨はやがて止み、夜が更けていく。静寂の中で、私は季節の移り変わりを感じ、村の中での静かな一日が過ぎていくのを感じていた。

ふと、窓の外に目をやると、月明かりの下で落ち葉が風に吹かれて舞い上がるのが見えた。それはまるで、秋の終わりと冬の始まりがひとつになったような、美しい景色だった。

冬の準備が整い、温かな料理が食卓に並び、家族で静かなひとときを過ごす。秋の名残と冬の足音が交差する、この時期ならではの温かい風景が、心に深く残った。


11月21日

波郷忌

落 葉

秋 桜

神有月

大 根

短 日

小鳥来る



二の酉

闇 汁

律の風

ずわい蟹

風 巻(しまき)

甲羅酒

佐 渡

紅 葉

初 冬

時雨雲

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