季節の織り糸

春秋花壇

文字の大きさ
上 下
190 / 359

熟柿 11月20日

しおりを挟む
熟柿

11月20日。空がすっかり冬の気配を見せ、寒風が村の道を吹き抜ける。乾いた風が、大根を干すために広げられた土の上を軽く撫で、あちらこちらで干物が陽に照らされている。秋の終わりが近づく中、これからの冬を迎える準備が整いつつあった。

私は大根をひとつ、手に取る。葉を切り落とし、慎重に土を払いながら、干し場に並べていく。村の人々が一緒になって大根を干している様子を見ながら、私は自然とその作業に没頭していた。

「今年はよく育ったな」と、隣の田んぼの手伝いをしているおばさんが言った。大根の出来が良い年は、きっと冬も穏やかで暖かいと信じられている。おばさんの言葉に、私も少し安心した。

その横では、コスモスが最後の花を咲かせ、風に揺れている。その花々の背後には、赤く染まった紅葉が広がり、秋から冬への移り変わりが目に見える形で現れていた。私の足元には、落ち葉がカサカサと音を立てて転がり、風に吹かれて舞い上がる。

「大根干す作業が終わると、もうすぐ冬だね」と、隣の男の子がぽつりと言った。彼は小さな手で大根を干しながら、まだ子供らしい無邪気な笑顔を見せていた。

大根を干している間に、村の広場では牡丹焚(ぼたんたき)も行われていた。牡丹焚とは、秋の収穫を祝うための儀式で、古くからこの村で行われている伝統だ。焚き火を囲んで村人たちが集まり、これからの寒い季節を乗り越えるための力を養うのだ。

私は少しその様子を覗きに行く。煙が空に向かって昇り、村の人々が温かい飲み物を手にして、楽しげに談笑している。その中に交じりながら、自然と笑顔がこぼれる。こうして寒さに備えながらも、暖かな時間を共有することが何よりの力になるのだ。

「寒竹の子が出てきたな」と、村の長老が言った。寒竹の子は、寒くなり始めると地面から顔を出す竹の新芽だ。長老の言葉に、私はふとその新芽を探す視線を向ける。

村の周りには、竹や木々が茂っている。秋が深まる中、神々の旅が始まったという言い伝えもある。神無月には、神々が出雲大社に集まり、村の神々もその間に留守を預けるという。しかし、村の長老たちは、この時期に神々の存在を感じることができると言って、常に心を静めている。

夜になると、寒竹の子を使って香り高い料理が振舞われる。家に戻ると、母が温かい金目鯛の煮付けを作って待っていた。その香りが部屋に広がり、私は思わず食欲をそそられた。

「お前も大根干し、手伝ったか?」と、母が優しく問いかける。私は頷きながら、食卓に座った。外では、夜風が冷たく吹いているが、家の中は温かく、心地よい。

「今年も金目鯛が手に入ったな」と父が言った。金目鯛は、この地方の特産品で、冬の食卓には欠かせない一品だ。その味わい深い煮汁が、体を温めてくれる。

「冬の雨が降り始めたな」と、母がつぶやいた。外では、ほんの少しの雨が降り始めていた。片時雨のように、しばらく降ったり止んだりするのだろう。

その晩、囲炉裏を囲んで、家族で温かい食事を楽しんだ。父が話す昔話や、母が話す日常の出来事を聞きながら、私は静かに食事を終えた。年末に向けて、村人たちはそれぞれの準備を進め、また寒い季節を迎える。

外では、熟柿が木々に残り、まだ黄色く色づいたままだ。これから寒さを乗り越え、柿が熟すとき、村はまた新しい命を迎えることになるのだろう。冬の準備が整い、心地よい空気が漂う中、私はこれから訪れる季節に思いを馳せた。

寒さに備えて、大根は干され、牡丹焚が行われ、金目鯛や寒竹の子が料理に使われる。村の人々は、自然と共に過ごしながら、冬の訪れを待っていた。

熟柿が木々に残り、その色がだんだんと深みを増していくのを見つめながら、私は静かな心で冬の到来を待つのであった。


11月20日

大根干す

落 葉

コスモス

紅 葉

大 根

牡丹焚

神の旅



一の酉

桜 鍋

大根干す

金目鯛

乾風(あなじ)

神渡し

寒竹の子

八手の花

冬の雨

片時雨

熟 柿
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

春秋花壇
現代文学
注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

生きる

春秋花壇
現代文学
生きる

憂鬱症

九時木
現代文学
憂鬱な日々

陽だまりの家

春秋花壇
現代文学
幸せな母子家庭、女ばかりの日常

ギリシャ神話

春秋花壇
現代文学
ギリシャ神話 プロメテウス 火を盗んで人類に与えたティタン、プロメテウス。 神々の怒りを買って、永遠の苦難に囚われる。 だが、彼の反抗は、人間の自由への讃歌として響き続ける。 ヘラクレス 十二の難行に挑んだ英雄、ヘラクレス。 強大な力と不屈の精神で、困難を乗り越えていく。 彼の勇姿は、人々に希望と勇気を与える。 オルフェウス 美しい歌声で人々を魅了した音楽家、オルフェウス。 愛する妻を冥界から連れ戻そうと試みる。 彼の切ない恋物語は、永遠に語り継がれる。 パンドラの箱 好奇心に負けて禁断の箱を開けてしまったパンドラ。 世界に災厄を解き放ってしまう。 彼女の物語は、人間の愚かさと弱さを教えてくれる。 オデュッセウス 十年間にも及ぶ流浪の旅を続ける英雄、オデュッセウス。 様々な困難に立ち向かいながらも、故郷への帰還を目指す。 彼の冒険は、人生の旅路を象徴している。 イリアス トロイア戦争を題材とした叙事詩。 英雄たちの戦いを壮大なスケールで描き出す。 戦争の悲惨さ、人間の業を描いた作品として名高い。 オデュッセイア オデュッセウスの帰還を題材とした叙事詩。 冒険、愛、家族の絆を描いた作品として愛される。 人間の強さ、弱さ、そして希望を描いた作品。 これらの詩は、古代ギリシャの人々の思想や価値観を反映しています。 神々、英雄、そして人間たちの物語を通して、人生の様々な側面を描いています。 現代でも読み継がれるこれらの詩は、私たちに深い洞察を与えてくれるでしょう。 参考資料 ギリシャ神話 プロメテウス ヘラクレス オルフェウス パンドラ オデュッセウス イリアス オデュッセイア 海精:ネーレーイス/ネーレーイデス(複数) Nereis, Nereides 水精:ナーイアス/ナーイアデス(複数) Naias, Naiades[1] 木精:ドリュアス/ドリュアデス(複数) Dryas, Dryades[1] 山精:オレイアス/オレイアデス(複数) Oread, Oreades 森精:アルセイス/アルセイデス(複数) Alseid, Alseides 谷精:ナパイアー/ナパイアイ(複数) Napaea, Napaeae[1] 冥精:ランパス/ランパデス(複数) Lampas, Lampades

日本史

春秋花壇
現代文学
日本史を学ぶメリット 日本史を学ぶことは、私たちに様々なメリットをもたらします。以下、そのメリットをいくつか紹介します。 1. 現代社会への理解を深める 日本史は、現在の日本の政治、経済、文化、社会の基盤となった出来事や人物を学ぶ学問です。日本史を学ぶことで、現代社会がどのように形成されてきたのかを理解することができます。 2. 思考力・判断力を養う 日本史は、過去の出来事について様々な資料に基づいて考察する学問です。日本史を学ぶことで、資料を読み解く力、多様な視点から物事を考える力、論理的に思考する力、自分の考えをまとめる力などを養うことができます。 3. 人間性を深める 日本史は、過去の偉人たちの功績や失敗、人々の暮らし、文化などを学ぶ学問です。日本史を学ぶことで、人間としての生き方や価値観について考え、人間性を深めることができます。 4. 国際社会への理解を深める 日本史は、日本と他の国との関係についても学ぶ学問です。日本史を学ぶことで、国際社会における日本の役割や責任について理解することができます。 5. 教養を身につける 日本史は、日本の伝統文化や歴史的な建造物などに関する知識も学ぶ学問です。日本史を学ぶことで、教養を身につけることができます。 日本史を学ぶことは、単に過去を知るだけでなく、未来を生き抜くための力となります。 日本史の学び方 日本史を学ぶ方法は、教科書を読んだり、歴史小説を読んだり、歴史映画を見たり、博物館や史跡を訪れたりなど、様々です。自分に合った方法で、楽しみながら日本史を学んでいきましょう。 まとめ 日本史を学ぶことは、私たちに様々なメリットをもたらします。日本史を学んで、自分の視野を広げ、未来を生き抜くための力をつけましょう。

聖書

春秋花壇
現代文学
愛と癒しの御手 疲れ果てた心に触れるとき 主の愛は泉のごとく湧く 涙に濡れた頬をぬぐい 痛む魂を包み込む ひとすじの信仰が 闇を貫き光となる 「恐れるな、ただ信じよ」 その声に応えるとき 盲いた目は開かれ 重き足は踊り出す イエスの御手に触れるなら 癒しと平安はそこにある

老人

春秋花壇
現代文学
あるところにどんなに頑張っても報われない老人がいました

処理中です...