季節の織り糸

照紅葉 11月19日

照紅葉

神無月の終わり、村の風景は色づいていた。秋の風が吹き抜け、紅葉がひらりと舞い落ちる中で、私はただ一人、山道を歩いていた。足元には散り落ちたコスモスと、色とりどりの葉がひとしきり広がっている。昨日までは青空が広がっていたが、今日はどこか薄曇りだ。冬の気配が少しずつ近づいてきているのを感じながら、歩みを進めた。

この村では、冬の気配を感じるとともに、人々は不安と期待の入り混じった思いを胸に抱えている。年末に向けての準備や祭り、そして寒さに向けた生活の変化が次第に強く意識されるからだ。私もその一員として、自然に身を任せながら過ごしてきた。

「冬浅し」とは、まだ冬が本格的に来る前の、あの少し切ない季節の呼び名。秋から冬へと移り変わる時期が、どうしても心に寂しさをもたらすことが多い。

その日、酉の市が開かれると聞き、村の広場に足を運んだ。酉の市は、秋の終わりを告げる重要な祭りで、商売繁盛や家内安全を祈るための縁起物を買い求める人々で賑わっていた。露天が並び、神社の境内にはたくさんの人々が集まり、賑やかな声が響いている。

「三平汁、温まるよ！」

と、屋台の主人が声をかけてきた。三平汁は、この地方特有の温かい料理で、寒さを和らげるためにぴったりだ。私は思わず立ち止まり、ひと口いただく。熱いスープが喉を通ると、心も体も温まった。

「ありがとう」と主人に微笑んで、私はさらに進んだ。あちらこちらで、寄鍋がふるまわれ、寒さを感じる前に身体がじんわりと温かさを感じる。おいしい香りが漂い、秋から冬への移り変わりを肌で感じることができる。

村の神社では、祭りの最中に参拝客が途切れない。みんな、来年の平安を祈りながら、お守りを手にする姿が印象的だった。神無月に入ると、神々が出雲大社に集まり、村の神々もその間は見守る役目を果たすのだという。

「今年も無事に過ごせました」と心の中でつぶやきながら、私は本殿の前で手を合わせた。風に揺れる木々の音が、心を落ち着けてくれる。

その後、村の小道をさらに歩くと、枯れた柏の木がひっそりと立っている。その周囲には、冬に備えた準備が整っており、今にも降り出しそうな雪を予感させるような冷たい風が吹いていた。

「もうすぐ、冬がやって来るな」と心の中で思う。村は、これからの寒い季節に備えて着々と準備を進めている。人々は、薪を集め、食料を確保し、冬の間を共に過ごすための団結を強めている。

その夜、家に戻ると、母が八手の花を飾っていた。八手の花は、家族の健康を祈る意味があり、冬の季節を乗り越えるために重要な花だ。祖母から受け継がれてきたこの風習を、私は大切にしている。

「もうすぐ冬だね」と母が言った。母の言葉はいつも穏やかで、私はそれに安堵を感じながら、座布団に腰を下ろした。囲炉裏の火が、暖かくて心地よい。

窓の外では、薄暗くなった空の下で、照紅葉が最後の輝きを放っている。あの紅葉の赤が、まるで冬が来る前に一番の力を振り絞っているかのように、深く心に残った。

村時雨が降り始め、冬の訪れを感じさせる音が静かに響き渡る。寒さが増す中で、家族や村人たちと共に過ごす時間が、何よりも心を温めてくれる。小春日和のような温かさが、冬に向けての不安を少しずつ和らげていくような気がした。

「もうすぐ、年が明ける」と思いながら、私は家族と共に温かな食事を囲んだ。外の寒さに負けず、私たちの心は暖かく、これからも続く冬の夜を迎える準備が整ったのだった。

紅葉の照り返しが、夜空に溶け込むように、心の中にも少しずつ温もりが広がっていく。冬の到来を感じながら、私はこれからの時を、静かな気持ちで迎えることを決めた。

その夜、私は窓辺に立ち、雪の降り始めを見つめた。紅葉が最後に輝くその瞬間、冬がしっかりと足元に迫っていることを感じた。それでも、私の心は穏やかで、温かな灯火が灯る家の中で、来るべき季節を迎える準備ができていると、心から思った。


11月19日

落　葉

コスモス

紅　葉

神無月

冬浅し

短　日

冬に入る

かりがね

酉の市

寄　鍋

うそ寒

神無月

三平汁

冬柏・枯柏

角　巻

八手の花

小　春

村時雨

照紅葉