季節の織り糸

春秋花壇

文字の大きさ
上 下
187 / 359

冬初めの訪れ 11月18日

しおりを挟む
「冬初めの訪れ」

風が冷たくなり、初冬の気配が日ごとに増すころ、里山の村にも静かな季節の変化が訪れていた。落葉が道端を覆い、コスモスは最後の力を振り絞って咲き誇り、紅葉は鮮やかな赤や橙に燃えるような色を見せている。村の軒先には、吊し柿がずらりと並び、季節の深まりを物語っていた。

家の中では、祖母が手際よく障子を貼り替えながら、窓の外を眺めては微笑む。「ほら、また小鳥が来たよ」祖母の指さす先には、何羽かの小鳥が庭の柿の木にとまっていた。孫の彩香が「小鳥たちも冬支度をしているんだね」と感心したように呟くと、祖母は優しく頷いた。

その日の午後、彩香は学校帰りに近くの森へと向かった。風に揺れる蔦紅葉を見つけ、赤や黄の美しさに思わず足を止める。彼女の手には、母が持たせてくれた肩掛けがある。そろそろ本格的に冷え込む季節で、肩掛けが恋しくなる。帰り道、ふと空を見上げると、昼間なのに月がぼんやりと浮かんでいた。何とも言えない幻想的な風景に、彩香は小さな溜息を漏らした。

家に戻ると、今度は祖父が切干大根を作っているところだった。彩香は「手伝おうか?」と声をかけ、祖父と並んで一緒に切り干しを作り始めた。祖父は小鳥が障子を突いた思い出話や、かつて竈猫が家に迷い込んだ話など、昔話をたっぷり聞かせてくれた。

その夜、布団に入って目を閉じると、今日一日見て感じたすべてが、彩香の胸にあたたかな記憶として残っていた。冬が始まろうとしているこの季節、どこか懐かしくも豊かな日々に彩香の心も次第に温められていくのだった。

彩香は次の日、祖父母の家の縁側に座って朝の空気を味わっていた。まだひんやりとした空気の中で、吊るした干し柿が柔らかい日差しを受けて静かに揺れている。その様子を見ていると、昨日祖父と一緒に作った切干大根のことを思い出し、胸がほんのりと温かくなった。

朝ごはんを食べたあと、彩香は祖母に頼まれて近所のおばあさんの家まで、干し柿を届けに出かけることになった。途中、家々の軒先には冬支度のために障子が貼り替えられていたり、雪除けの藁が庭木に巻かれていたりと、冬を迎えるための準備が進んでいるのが感じられる。どこか誇らしげに見える村の風景に、彩香の心は穏やかな喜びに包まれた。

おばあさんの家に着くと、おばあさんが笑顔で迎えてくれた。「まあまあ、こんな寒い中わざわざありがとうね」と感謝され、彩香はちょっと照れながら干し柿を手渡した。おばあさんはその干し柿を眺めながら、「ああ、こうして季節の恵みをいただけるのは幸せなことね」と静かに呟いた。その言葉に、彩香もなんだか誇らしい気持ちが湧き上がる。

帰り道、風に揺れる落ち葉が道端に積もっているのを見つけると、彩香はしゃがんでその葉を一枚手に取った。淡い茶色に染まった葉は、どこか寂しげだけれども、最後の役割を果たそうとするかのように力強く感じられる。「私も、この村でいろんなことを学んで、最後まで役立つ人間になりたいな」と彩香は思わず口に出して呟いた。

家に戻ると、祖母が暖かいお茶を入れて待っていてくれた。今日は特別に、祖母手作りの甘い柚子ジャムを添えたお茶だ。彩香はその香りを楽しみながら、ふと「また何か手伝えること、ないかな」と祖母に尋ねた。祖母は微笑み、「彩香ちゃんがいてくれるだけで、みんな嬉しいのよ」と言ってくれた。その言葉に、彩香の胸はさらに温かくなり、家族や村の人たちへの感謝が込み上げてきた。

そうして、彩香はまたひとつ、季節と共に成長していくのだった。この村で、日々変わる自然と、少しずつ移ろう家族や村人たちとの絆の中で、自分の役割や未来について少しずつ考えるようになっていく。冬が本格的に始まる前の静かなひとときの中で、彩香はこれからの自分に思いを馳せ、今までにない決意を胸に刻んだ。


11月18日

小鳥来る

落 葉

コスモス

紅 葉

冬初め

吊し柿

障 子

帰り花

昼の月

鎌 鼬

障 子

竈 猫

帰り花

手足荒る

芭蕉忌

肩掛け

蔦紅葉

障 子

切 干
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

春秋花壇
現代文学
注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

生きる

春秋花壇
現代文学
生きる

憂鬱症

九時木
現代文学
憂鬱な日々

陽だまりの家

春秋花壇
現代文学
幸せな母子家庭、女ばかりの日常

ギリシャ神話

春秋花壇
現代文学
ギリシャ神話 プロメテウス 火を盗んで人類に与えたティタン、プロメテウス。 神々の怒りを買って、永遠の苦難に囚われる。 だが、彼の反抗は、人間の自由への讃歌として響き続ける。 ヘラクレス 十二の難行に挑んだ英雄、ヘラクレス。 強大な力と不屈の精神で、困難を乗り越えていく。 彼の勇姿は、人々に希望と勇気を与える。 オルフェウス 美しい歌声で人々を魅了した音楽家、オルフェウス。 愛する妻を冥界から連れ戻そうと試みる。 彼の切ない恋物語は、永遠に語り継がれる。 パンドラの箱 好奇心に負けて禁断の箱を開けてしまったパンドラ。 世界に災厄を解き放ってしまう。 彼女の物語は、人間の愚かさと弱さを教えてくれる。 オデュッセウス 十年間にも及ぶ流浪の旅を続ける英雄、オデュッセウス。 様々な困難に立ち向かいながらも、故郷への帰還を目指す。 彼の冒険は、人生の旅路を象徴している。 イリアス トロイア戦争を題材とした叙事詩。 英雄たちの戦いを壮大なスケールで描き出す。 戦争の悲惨さ、人間の業を描いた作品として名高い。 オデュッセイア オデュッセウスの帰還を題材とした叙事詩。 冒険、愛、家族の絆を描いた作品として愛される。 人間の強さ、弱さ、そして希望を描いた作品。 これらの詩は、古代ギリシャの人々の思想や価値観を反映しています。 神々、英雄、そして人間たちの物語を通して、人生の様々な側面を描いています。 現代でも読み継がれるこれらの詩は、私たちに深い洞察を与えてくれるでしょう。 参考資料 ギリシャ神話 プロメテウス ヘラクレス オルフェウス パンドラ オデュッセウス イリアス オデュッセイア 海精:ネーレーイス/ネーレーイデス(複数) Nereis, Nereides 水精:ナーイアス/ナーイアデス(複数) Naias, Naiades[1] 木精:ドリュアス/ドリュアデス(複数) Dryas, Dryades[1] 山精:オレイアス/オレイアデス(複数) Oread, Oreades 森精:アルセイス/アルセイデス(複数) Alseid, Alseides 谷精:ナパイアー/ナパイアイ(複数) Napaea, Napaeae[1] 冥精:ランパス/ランパデス(複数) Lampas, Lampades

日本史

春秋花壇
現代文学
日本史を学ぶメリット 日本史を学ぶことは、私たちに様々なメリットをもたらします。以下、そのメリットをいくつか紹介します。 1. 現代社会への理解を深める 日本史は、現在の日本の政治、経済、文化、社会の基盤となった出来事や人物を学ぶ学問です。日本史を学ぶことで、現代社会がどのように形成されてきたのかを理解することができます。 2. 思考力・判断力を養う 日本史は、過去の出来事について様々な資料に基づいて考察する学問です。日本史を学ぶことで、資料を読み解く力、多様な視点から物事を考える力、論理的に思考する力、自分の考えをまとめる力などを養うことができます。 3. 人間性を深める 日本史は、過去の偉人たちの功績や失敗、人々の暮らし、文化などを学ぶ学問です。日本史を学ぶことで、人間としての生き方や価値観について考え、人間性を深めることができます。 4. 国際社会への理解を深める 日本史は、日本と他の国との関係についても学ぶ学問です。日本史を学ぶことで、国際社会における日本の役割や責任について理解することができます。 5. 教養を身につける 日本史は、日本の伝統文化や歴史的な建造物などに関する知識も学ぶ学問です。日本史を学ぶことで、教養を身につけることができます。 日本史を学ぶことは、単に過去を知るだけでなく、未来を生き抜くための力となります。 日本史の学び方 日本史を学ぶ方法は、教科書を読んだり、歴史小説を読んだり、歴史映画を見たり、博物館や史跡を訪れたりなど、様々です。自分に合った方法で、楽しみながら日本史を学んでいきましょう。 まとめ 日本史を学ぶことは、私たちに様々なメリットをもたらします。日本史を学んで、自分の視野を広げ、未来を生き抜くための力をつけましょう。

聖書

春秋花壇
現代文学
愛と癒しの御手 疲れ果てた心に触れるとき 主の愛は泉のごとく湧く 涙に濡れた頬をぬぐい 痛む魂を包み込む ひとすじの信仰が 闇を貫き光となる 「恐れるな、ただ信じよ」 その声に応えるとき 盲いた目は開かれ 重き足は踊り出す イエスの御手に触れるなら 癒しと平安はそこにある

老人

春秋花壇
現代文学
あるところにどんなに頑張っても報われない老人がいました

処理中です...