季節の織り糸

小春の侘助 11月14日

「小春の侘助」

11月14日、小春日和が続く村の山道を歩いていたユリは、ひときわ目を引く鮮やかな紅葉に立ち止まった。そこには、季節外れにひっそりと咲く侘助の花が一輪。侘助は、寒さの訪れを知らせる花だが、咲くとどこか寂しげで、紅葉に包まれながらも目立たない美しさを持っている。侘助の花は小さく控えめだが、その赤みがかかった白い花弁は、秋の山道にしっかりとした存在感を示していた。

ユリはその花を見つめながら、自然とその場に腰を下ろした。今年は、彼女にとって特別な一年だった。春には父親が病で他界し、母親もずいぶんと落ち込んでしまい、家の中は重苦しい空気に包まれていた。それでも、ユリは仕事に励み、日々の暮らしを支えるために自分の時間を削って家のことを支えてきた。けれど、父の面影が残る家に戻る度、心の奥にぽっかりと空いた穴が痛むように感じた。

その時、近くの木陰で何かが動く音がした。ユリが顔を向けると、そこには一人の老人がいた。杖を持ちながら、ゆっくりと歩み寄ってきたその姿にユリは見覚えがあった。村の古い神社で、よく見かける守のような存在の老人だ。老人はユリに微笑みかけると、ふっと侘助の花に目をやった。

「侘助の花は、不思議なもんじゃよのう」と老人は語り始めた。「咲くときも控えめで、人の目を引かんのだが、気づく人には心に深く響くもんじゃ。そなたも、よう気づいたのう」

ユリはその言葉に頷き、静かに答えた。「なんだか、寂しげな美しさがあるように感じました。今年は家の中も色々と大変で…こうして自然の中に身を置くと、少しだけ気が楽になるんです」

老人は優しく笑って、遠くの山々を眺めた。「そなたの心が侘助に惹かれるのは、それだけ心が敏感だからじゃ。悲しみも喜びも、そなたの中で息づいている。それを大切にせい」

老人の言葉はユリの胸にじんわりと染み入った。父の死が彼女の心に残した痛みは、消えることはないかもしれないが、それでも、こうして自然と触れ合うことで少しずつ癒されていく気がした。侘助の花も、きっと誰かのために咲いている。その控えめな美しさは、見る人の心に静かに寄り添い、そっと励ましてくれるように思えた。

夕方になり、少し冷え込んできたが、ユリは心の中に温かな何かを感じながら帰路についた。村の山道を抜けると、木々の紅葉が目の前に広がり、温かい日差しが差し込んでいた。その紅葉の中にぽつんと佇む侘助の花は、どこか誇らしげに咲いているように見えた。

その日、ユリは家に帰り、久しぶりに家族のために夕食を作ることにした。鍋を火にかけ、温かい湯気が立ち上がると、母もゆっくりと台所に現れた。母と共に食事を囲むのは久しぶりだった。ユリは、心の中に積もっていた寂しさが少しずつ解けていくのを感じた。

「ありがとうね、ユリ」と母が微笑む。父がいなくなってからというもの、二人きりの生活には寂しさが伴ったが、こうして少しずつ日常が戻りつつある。母の穏やかな顔に、ユリはほっと安堵した。

その夜、布団に入ったユリは、ふと侘助の花の姿を思い浮かべた。「侘助の花のように、静かに人を励ます存在になれたら…」そんな願いが、彼女の胸にふわりと灯ったのだった。

そして、寒さの中で咲く侘助の花は、ユリの心にいつまでも残り、彼女を支えていくことだろう。


11月14日

熟　柿

侘　助

紅　葉

櫨紅葉

帰り花

皇帝ダリア

柊の花

雁

木の葉

温　石

小　春

時雨月

雁

露

散紅葉

霧

紅葉狩

重ね着

初紅葉