季節の織り糸

小春日和の十日夜 11月10日

小春日和の十日夜

晩秋の山里、色づく紅葉が空を染め、澄んだ空気が肌にひんやりと触れる日。今日は十日夜、豊穣の神を祀る日である。この村の神社では、地元の人々が収穫を祝い、今年の感謝を捧げる祭りが開かれていた。

境内の参道には、秋灯がともされ、ほのかな橙の光が長い影を作っている。立冬を迎え、紅葉はまさに見頃。紅葉山と呼ばれる山の斜面は、赤や黄に染まり、一歩踏み入れるたびにカサリと枯れ葉が舞い上がる。

祭りに訪れた里の少年、涼太は、神社の石段の下に腰掛け、木の葉がはらはらと舞う様子を眺めていた。その手には、祖母がくれた熟れた柿がある。鮮やかな橙色をした柿は、しっかりと甘く、噛むととろりとした果汁が広がった。

「涼太、見てごらん、あれがオリオン座だよ。」

隣に座っていた祖父が、夜空を指差す。涼太が顔を上げると、澄んだ秋の空に浮かぶ星々がくっきりと輝き、オリオン座の姿がはっきりと見える。

「すごい、こんなにはっきり見えるんだ。」

涼太は、感動のあまり柿を忘れて星々を見つめる。祖父と一緒に星を見ながら、涼太は幼い頃の思い出を蘇らせていた。小春日和の日には、祖父と一緒に熱気球の話を聞かせてもらいながら、こうして夜空を見上げたものだ。今夜の冷たさも、彼にとっては懐かしく心地よい。

やがて、祭りの賑わいから少し離れた場所に移動した涼太は、境内の片隅で、そっと八手の花を見つけた。白い小さな花が冷たい夜気の中、静かに咲いている。秋が終わりに近づく頃、八手の花が密かにその存在を知らせるかのように顔を出す。

涼太は、自然が織りなすこの秋の終わりの風景を静かに味わっていた。この村の景色や、木々の匂い、豊かな収穫物が持つ香りを、心に焼き付けるかのように。

その時、ふと後ろから声がした。

「涼太、こちらで治部煮ができたから、食べにおいで。」

振り返ると、笑顔の祖母が小さな鍋を片手に招いている。涼太は駆け寄り、温かい治部煮の匂いに包まれる。具材がたっぷり入った汁は、優しい味がしみわたり、体も心も温まる。

この夜、涼太は秋の灯の明かりとともに、祖父母と語らいながら過ごした。秋が終わり、冬が訪れるときのひんやりとした空気と、家族との温かい時間。この静かな夜に、彼は自然と共に過ごす尊さを深く感じていた。

やがて、村に朝が来る頃、涼太はそっと手を合わせ、山里の秋に別れを告げた。


11月10日

木の葉

熱気球

紅葉狩

紅　葉

柿

立　冬

雁

小　春

露

十日夜

秋　灯

秋

オリオン

紅葉山

八手の花

木の実

治部煮

秋の灯