季節の織り糸

冬のぬくもり - つづき

「冬のぬくもり - つづき」

涼の手のひらが優奈の背中を優しく撫でる。布団の中で彼女が目を閉じると、しばらくは二人の息遣いだけが静かに響いていた。しかし、心地よい温もりの中で、過去の記憶がふと蘇る。

優奈の心の中に、涼と出会う前の出来事が浮かんできた。まだ彼との関係が始まる前、彼女は仕事や日々の生活に追われて、自分を見失っていた。恋愛には興味を失い、ただ淡々と毎日を過ごしていた。あの頃は、自分の心がどこに向かっているのかも分からなかった。

一度だけ、夜遅くに出かけた帰り道、街灯の下で一人きりで立ち止まったことがあった。その時、ふと目にしたのが、道の端に立っていた涼だった。涼はその時、まだ彼女と知り合ったばかりだったが、彼女が立ち止まっているとすぐに気づき、歩み寄ってきた。

「大丈夫？」と、何気ない一言だったけれど、その一言が、優奈の中にずっと残った。涼の温かい眼差しと、彼の存在そのものが、まるで暗闇に光を灯すように、彼女の心を優しく包んでくれたのだ。

その後、二人は何度も会うようになった。最初は友達として、何気ない会話を交わしていたけれど、次第に彼の存在が自分にとって大きなものになっていった。涼は、何気ないことでさえ優奈に心地よい安心感を与えてくれた。彼と過ごす時間が増えるたびに、心の中に積もっていた不安や寂しさが少しずつ溶けていった。

そして、涼の方も少しずつ優奈に心を開くようになったことが、優奈には不思議だった。彼は普段、あまり自分のことを話さない。けれど、ある日、仕事で落ち込んでいた優奈を、涼がちょっとしたサプライズで元気づけてくれた。彼の心遣いが、それまで彼が見せてこなかった一面を見せてくれた瞬間だった。

「僕、あんまりこういうこと言わないんだけど」と、涼が真剣な表情で言った。優奈はその時、何か不安を抱えていた。だが、彼が続けた言葉に驚き、また少し安堵した。

「でも、君が落ち込んでると、俺もなんだか辛くなるんだ。」

その時の言葉が、優奈にとって大きな意味を持った。涼は強くて優しく、どこか冷静で、まるで鋼のように見えることが多かったけれど、あの瞬間、彼の心が自分に向けられていることに、強く感じたのだ。

そして、今。二人はお互いの存在を無意識のうちに大切にし、そっと寄り添いながら温かい時間を過ごしている。優奈は、今の自分がこれまでのどんな時よりも幸せだと思った。何より、涼と一緒にいることが、安心と喜びの源になっていた。

「涼、覚えてる？」優奈がふと聞いた。

「覚えてる？」涼が少し首をかしげて、優奈に顔を近づけた。

「あなたが初めて『君が落ち込んでると辛い』って言った時のこと。」

涼は少し驚いた顔をしてから、静かに微笑んだ。「ああ、あの時か。あれは本当に思ってたことだからな。」

優奈はその言葉を聞いて、胸が温かくなるのを感じた。二人の関係は、時間をかけて少しずつ築かれてきたものだったけれど、そのすべてが今につながっていると思うと、何とも言えない気持ちが湧いてきた。

「あなたのその言葉で、私はすごく救われたの。」優奈が目を閉じて言った。

「俺もだよ、優奈。」涼は優しく彼女を抱きしめ、静かな声で続けた。「君がいないと、俺もどうしていいかわからない。だから、これからもずっと一緒にいてほしい。」

優奈はその言葉を心の中でしっかりと受け止めた。今まで自分が心の中で感じていたことと、涼が言葉にしてくれたことが、ぴったりと重なったように思えた。

彼女は静かに、そして強く涼に抱きしめられながら、心の中で誓った。これからもお互いの気持ちを大切にして、どんな困難があっても、一緒に乗り越えていこうと。

その夜、二人の間に流れる時間が、過去のすべてを越えて、未来を照らす光となることを感じながら、優奈は静かに眠りについた。