季節の織り糸

春秋花壇

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寒い夜の記憶 11月6日

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「寒い夜の記憶」

11月6日の東京、気温14℃、湿度70%の夜。しんと冷え込んだ空気が街を包んでいた。秋の終わりが間近に迫り、冬の気配が感じられる夜だった。ビルの谷間にある小さな公園に佇む大学生の圭介は、薄手のTシャツ一枚で思わず身震いした。

「こんなに冷えるとは思わなかったな……」

そう呟いて、ポケットに手を突っ込みながら、圭介はあたりを見回した。街灯に照らされた紅葉が、風に揺れてはひらひらと落ちている。いつもは人で賑わう場所だが、この夜はひっそりと静まり返り、冷えた空気が広がっていた。圭介は寒さに身をすくめながら、ふと、自分のスマホの画面を見つめた。

「もう二ヶ月か……」

画面には、彼がかつて付き合っていた彼女の写真が映っていた。別れてから二ヶ月が経ったものの、彼はまだ彼女の存在を完全には忘れられずにいた。その彼女と最後にデートをしたのが、同じく東京のこの公園だった。あの時は確か夏の終わりで、暑さが残っていたはずなのに、今夜はすっかり冷え込んでいる。彼はあの日のことを思い出し、胸がきゅっと締め付けられるような感覚を覚えた。

彼女との思い出がよみがえる。あの夜も二人で手をつなぎながらこの公園を歩き、何気ない会話を楽しんでいた。彼女は笑顔を浮かべ、圭介が冗談を言うたびに微笑んでくれた。しかし、そんな穏やかな夜が永遠に続くことはなく、いつの間にか二人の距離は少しずつ遠ざかっていったのだ。

別れる直前、彼女が言った最後の言葉が耳に残っている。

「もう少し、あなたが気持ちを伝えてくれていたら、違ったかもしれないね」

その言葉が頭の中で繰り返され、彼は今でもその意味を深く考え続けていた。彼女は、自分が思っていた以上に気持ちを求めていたのかもしれない。圭介は素直になれず、いつも自分の中で感情を抑え込んでしまっていた。彼女に気持ちを伝えることが苦手で、なぜか「恥ずかしい」という気持ちが先に立ってしまっていた。

冷えた風が吹き抜け、さらに寒さが増した。圭介は腕をさすりながら、ポケットの中で何かを探り始めた。ふと指先に触れたのは、小さな手編みのストラップだった。彼女が別れ際に渡してくれたもので、彼にとっては彼女の最後の想いが込められたものだった。

「こんな寒い夜でも、これがあれば少しは暖かくなるかもね」

そう言って微笑む彼女の顔が脳裏に浮かび、圭介は思わず顔を上げた。しかし、もちろんそこには彼女の姿はない。スマホの画面に映る彼女の写真が冷たく彼を見つめているだけだった。

「俺は、まだ未練があるのかな」

彼は自分に問いかけたが、答えは出ない。ただ、静かに冷え込む夜の中で、ふわりと漂う寂しさが彼を包み込んでいた。

このまま立っていても、彼女との思い出が自分の中に溢れるだけだと感じた圭介は、公園を離れることにした。ビル街の明かりが遠くに浮かび、寒さが彼の肩に重くのしかかるようだった。

帰り道、ふと入ったコンビニで、圭介は温かい缶コーヒーを手に取った。カウンターで会計を済ませ、手の中で温もりを感じると、ほんの少し心がほぐれた気がした。外に出ると、夜空には薄い雲がかかり、月がぼんやりと浮かんでいる。街の灯りがその月に重なり、ぼんやりとした光が淡い温もりを感じさせた。

「また、いつか彼女に会える日が来るのだろうか」

そんな淡い期待が心の片隅に浮かびながらも、圭介は現実の冷たさを受け入れていた。缶コーヒーを一口飲み、温もりが体の中に染み渡るのを感じながら、彼は歩き出した。やがて、薄暗い夜道を一人で歩く圭介の背中を、秋の冷たい風が静かに包み込んだ。

これからもっと寒くなる季節がやってくる。しかし、冷え切った夜がどれほど続いても、いつか心が再び温まる日が来ると信じて、彼はまた一歩を踏み出すのだった。
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