季節の織り糸

木枯や ひろ野を走る 雲のかげ

木枯や ひろ野を走る 雲のかげ

森鴎外


「木枯らし」

木枯らしが吹き抜ける晩秋のひろ野。青空は高く澄み渡り、太陽の光が地面を温めるが、風は冷たく、まるで冬の訪れを告げる使者のようだった。風に吹かれた草や枯れ葉が舞い上がり、彼方の山々は薄く霞んで見える。そんな風景の中、少年の健太は広い野原を走り回っていた。

健太はこのひろ野が大好きだった。何もないこの場所で、彼は自由に遊ぶことができた。学校ではあまり目立たない存在だったが、ここでは誰にも気を使うことなく、自分の思いのままに過ごすことができた。今日は特に風が強く、雲がさっと流れ去る様子が気に入っていた。彼は木枯らしに乗って飛んで行きたくなるような気持ちで、笑い声を上げながら走った。

「健太、お前、また一人で遊んでるのか？」と、背後から声がした。振り返ると、友達の涼介が走り寄ってくる。涼介もこのひろ野の常連で、二人はいつも一緒に遊んでいた。

「うん、風が気持ちいいから！」と健太は笑顔で答えた。「お前も来いよ、一緒に走ろう！」

涼介は少し戸惑いながらも、彼の元に駆け寄った。「おい、見てみろよ！」と、彼は指をさした。健太が見ると、空を流れる雲の影が地面を滑るように動いていた。彼らはその影を追いかけるように、走り出した。

「雲のかげに近づきたい！」と涼介が叫ぶ。二人は競い合うようにして、その影を追いかけて駆け抜けた。だが、木枯らしは風のように強く、時折立ち止まると、背中を押されるような感覚にとらわれた。そんな中でも、二人は笑い声をあげ、無邪気に遊んだ。

しばらく走っていると、健太はふと立ち止まった。「そういえば、今日は何か特別なことしない？」彼は周りを見回し、何か新しい遊びを探している様子だった。

涼介も考え込み、「じゃあ、隣の山まで行ってみないか？そこにはいつもおもしろいものがあるかもしれない！」と提案した。

「いいね！じゃあ、行こう！」二人は新たな冒険に心を躍らせ、山を目指して再び走り出した。

ひろ野を抜け、二人は雑木林を進んでいった。木の間から差し込む光が、鮮やかな緑と黄葉を照らし出していた。落ち葉の感触や、木の枝をかすめる風の音が心地よく響く。やがて山の頂上にたどり着くと、目の前には大きな岩が鎮座していた。

「ここからの景色、すごい！」と健太は叫び、岩の上に立ち上がった。彼は広がるひろ野を一望し、雲の影が揺れ動く様子に感動した。「まるで自分が雲の中にいるみたいだ！」

涼介も岩に登り、二人で広がる景色を眺めた。だが、急に風が強くなり、彼らはバランスを崩しそうになった。「やばい、落ちるかもしれない！」と涼介が叫ぶ。

「大丈夫、しっかりつかまれ！」と健太が叫び、涼介を支えた。二人は岩の上でしっかりと踏ん張り、風に吹かれても倒れないように努力した。彼らの心の中には冒険の興奮が広がっていた。

「これ、最高だな！」と涼介が笑った。「また来ようぜ！」

「うん、絶対に来よう！」健太も笑顔で答えた。彼らはこのひろ野での冒険を通じて、友情を深めていた。

やがて日が傾き、夕焼けが空を赤く染め始めた。「そろそろ帰らないと、お母さんが心配するよ」と涼介が言った。

「そうだね。でも、また明日も来よう！」健太は元気に応じた。二人はひろ野を後にし、仲良く帰路についた。木枯らしが吹き抜ける中、彼らの笑い声は空高く響き渡り、夕日が二人の影を長く伸ばしていった。

この日、彼らはただの遊びの中で、冒険や友情の大切さを学び、新しい思い出を刻むことができた。木枯らしが去り、冬が訪れようとも、彼らの心には暖かい思い出が残っていた。