季節の織り糸

初霜や 茎の歯ぎれも 去年まで

初霜や 茎の歯ぎれも 去年まで

小林一茶


「初霜」

初霜が降りた朝、村は静けさに包まれていた。薄い霜が大地を覆い、草や木々の葉はキラキラと輝いている。小さな集落の片隅に住む村娘、花子は、この美しい光景に目を奪われていた。

彼女は毎年、初霜の朝を特別なものとして心待ちにしていた。子供の頃から、霜の美しさに魅了され、薄氷の上を歩く感触や、冷たい空気を胸いっぱいに吸い込むことに喜びを感じていた。しかし、今年の初霜はどこか特別だった。茎が折れ、昨年までの花々が霜にさらされる姿を見ると、彼女の心に切なさが走った。

「ああ、今年も冬が来たのね」と、花子はため息をついた。かつてこの庭には色とりどりの花々が咲き乱れ、彼女の笑い声が響いていた。だが、昨年、母が急逝してからというもの、彼女は一人でこの小さな家を守っていた。母が愛した庭は、今や荒れ果て、花の茎が折れ、去年までの賑わいはどこにも見当たらなかった。

「初霜や、茎の歯ぎれも去年まで」—花子はその句を思い出し、心にしみじみとした感情を抱いた。彼女は自らの悲しみを紛らわせるために、古い句集を開いた。そこには、母が愛してやまなかった俳句がたくさん詰まっていた。その中に、彼女が詠んだ「初霜や、茎の歯ぎれも去年まで」という句があった。今、母が生きていれば、どんなにか一緒にこの景色を楽しんだだろう。

花子は庭を歩き回りながら、母の思い出に浸っていた。彼女が教えてくれた花の名前や、世話の仕方、初霜の美しさを愛する気持ち。彼女は母の言葉を思い出す。「花は季節の訪れを知らせてくれる。大切に育ててあげれば、必ずその美しさを見せてくれる」と。花子は自分に言い聞かせた。「もう一度、庭を手入れしよう。母のためにも。」

彼女は霜に覆われた草を手で優しく払い、枯れた茎を切り落とした。そして、新しい種をまくことに決めた。冬の寒さに耐え、春の訪れを待つ花々が咲く姿を夢見て。彼女の心の中に少しずつ希望が芽生えていくのを感じた。初霜は彼女にとって、母の存在を思い出させるものであり、同時に新たな始まりを告げるものでもあった。

日が昇り、陽の光が差し込むと、霜は次第に溶け始め、庭に新たな息吹をもたらしていた。花子は空を見上げ、冬の厳しさに立ち向かう決意を固めた。「今年は、私がこの庭を蘇らせる」と、彼女は心の中で強く誓った。

毎朝、花子は庭に出て、草花と向き合った。手をかけ、愛情を注ぎ、少しずつ花が顔を出す様子を楽しみにしていた。初霜の美しさは彼女にとって過去の思い出ではなく、未来への希望を象徴するものとなった。

冬が深まり、霜が降りるたびに、彼女は母の教えを思い出し、庭の世話を続けた。そして、ついに春が訪れると、彼女の庭は色とりどりの花々で賑わい始めた。花々が咲くたびに、彼女は母の微笑みを感じることができた。

「初霜や、茎の歯ぎれも去年まで」—この句は、彼女にとって過去の悲しみを象徴するものだったが、今では新たな始まりの象徴でもあった。花子は、母の愛を胸に、これからもこの庭を守り続けることを誓った。初霜の朝は、彼女にとって大切な日であり、心の中で母とつながる瞬間となったのだった。