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晩秋の浜 10月30日

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晩秋の浜

10月30日、朝霧に包まれた浜辺に立つと、薄く漂う霧が松の間をすり抜け、しんと静まりかえっている。小さな波音だけが寄せては引き、まるで浜辺全体が晩秋の眠りに入っているようだった。深呼吸すると、濡れた土や苔の匂いが鼻をくすぐり、遠くにかすかに松茸の香りが漂っている。松林には、木の実がところどころ落ち、露に濡れている。その間から顔を覗かせる茸も秋の終わりを感じさせた。

そんな浜辺で、今年収穫されたばかりの新米を抱えて浜へやってきたのは、地元で田んぼを持つ老夫婦だった。この町では、秋の終わりを祝うささやかな行事として、収穫した新米を家族で分け合い、松の木の間にひっそりと供えるという風習があったのだ。

老夫婦の隣には、孫の晴人が小さな手をつないでいる。彼は都会で育ち、この小さな町にやってきたのは夏休み以来のことだ。秋の景色にすっかり目を奪われ、松笠を拾ったり、紅葉した葉を追いかけたりと、忙しそうに動き回っていた。

「晴人、このお米を松の根元に置いてごらん」

祖父が静かに声をかけると、晴人は嬉しそうに袋の中から一握りの新米を取り出し、そっと地面に供えた。

「どうしてこんなことするの?」

「毎年、自然の恵みに感謝をするためなんだよ。この米も、松茸も、木の実も、みんな自然がくれたものだから」

晴人は不思議そうに頷きながら、松の幹に手を触れた。樹の感触はひんやりとしていて、彼にとってはなんだか大人びた瞬間に感じられた。そのまま空を見上げると、朝霧が薄れて、雲の間からぼんやりと月が浮かんでいるのが見えた。

「お月さま、もうお昼間なのにいるね」

「そうだね。秋の終わりには昼間に見えることもあるんだ。冬が来る合図のようなものかもしれない」

祖母が微笑み、そっと晴人の肩に手を置いた。老夫婦にとって、孫がこうして田舎の風景に触れ、自然と過ごす時間はかけがえのないものだった。秋も深まり、冬瓜の収穫が終わる頃、子どもたちは大人に見守られながら、田舎の生活を少しずつ受け継いでいく。

ふと、晴人が小さな声で話しかけた。「あのね、これ、何?」彼が指差した先には、真っ赤な実が鈴なりに生っている珊瑚樹があった。

「それは珊瑚樹っていうんだ。秋が終わる頃になると真っ赤になる。まるで、寒い冬を迎えるために燃えているみたいだろう?」

「うん、きれいだね」

晴人は、手のひらで真っ赤な実をそっと包み込む。実の表面は冷たく硬かったが、何か温かいものが中に宿っているようにも感じられた。小さな秋の贈り物のような珊瑚樹の実に触れたことで、晴人の心にも、この地の豊かな自然の記憶が少しずつ刻まれていく。

一通り新米を供え、松笠を拾って歩き始めると、あたりには静かに霜が降りているのが見えた。木々や草の葉には白い霜が薄く付き始めており、触れると指先で溶けて水滴が滴る。老人はしゃがみ込み、霜のついた草をじっと見つめながら静かに言った。

「これが晩秋の終わりなんだ。霜が降りる頃になると、やがて冬が来る」

「おじいちゃん、この霜が降りると、何か良いことあるの?」

「良いことか、そうだな…霜の下には、来年の春の準備がちゃんと待っているんだよ」

この言葉の意味は、晴人にはまだよくわからなかったが、霜の中に春が眠っているという考えがどこか神秘的に感じられ、興味深そうに霜をじっと見つめた。

浜辺の小道を歩きながら、老夫婦と孫は小さな秋の宝物を見つけては、それをそっと手に取っていた。秋の終わりにはこんなに多くの自然の贈り物があるのだと知り、晴人の心には忘れられない風景が刻まれていった。

やがて、山の影が深くなる頃、日が落ちていき、秋の浜辺はひっそりと静かになった。


10月30日







秋の浜

松 茸

木の実





紅 葉

新米・今年米

珊瑚樹

晩 秋

冬 瓜

松 笠

観 楓



新米・今年米

霜 降
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