季節の織り糸

秋晴れの午後 10月22日

「秋晴れの午後」

10月22日、秋晴れの空が広がる午後、涼やかな風が吹き抜ける中、紗英（さえ）は庭の手入れをしていた。松の枝を丁寧に切り整え、足元に落ちた椿の実を見つけると、少し微笑んだ。この季節になると、庭仕事が自然と楽しくなる。手入れをしながらも、頭の中ではもうすぐ来る十三夜のことを考えていた。

「今年は十三夜の月がよく見えそうだな」

庭から見上げた空には、まだ日差しが強く残っていたが、夜になると澄んだ空気が一層冷たく、月が美しく輝くだろう。今年も十三夜を迎えると、月見団子を作り、すすきや秋草を飾って、静かなひとときを楽しむ予定だ。

ふと足元を見ると、初時雨（はつしぐれ）が降り始める前兆のように、落ちた葉が一層濡れて光っていた。芋の露がきらきらと光り、小さな自然の美しさに、紗英の心はほんの少し和んだ。

「今年も新米が届いたから、今夜は炊きたてのご飯と鰻にしようかな」

秋になると、祖父が丹精込めて育てた穭（ひつじ）米、今年収穫されたばかりの新米が送られてくる。それをふっくらと炊き上げて、今年初めての鰻と一緒に食べることが家族の恒例行事となっている。

紗英は家の中に戻り、キッチンで新米を研ぎ始めた。冷たい水の感触が心地よい。新米の白さと瑞々しさが、手の中に伝わってくると、心の中にも静かに秋の豊かさが染み渡るようだった。蓮の実も煮て、秋の味覚を家族と楽しむ準備を進める。

その後、ふとカウンターの上に目をやると、栗名月に向けて買ってきた数珠玉が置かれている。秋の夜長には、こうした小さな自然の恵みを飾り、ひとときの美しさを楽しむことが何よりも贅沢だと、紗英は思っていた。数珠玉を見つめながら、また秋のひとつの風情を感じ取る。

「栗名月もすぐだわ……」

栗を使ったお菓子も用意することにした。今年は栗が豊作だったらしく、地元の市場で大ぶりの栗をたくさん手に入れた。それを使って作る栗ご飯や、和菓子の栗蒸し羊羹が今から楽しみだった。

台所で準備をしながら、窓の外を見ると、再び秋晴れの空が美しい。空気はひんやりとしているが、澄み切った青空が心地よく、日差しがやわらかに部屋の中を照らしている。

「こんな日は、のんびり外でお茶をするのもいいかもしれない」

紗英は急にそう思い立ち、庭に出ることにした。庭のベンチに座り、松の手入れの途中だった場所を眺めながら、茶碗に温かいお茶を注いで一息つく。風が吹くたびに、枯露柿（ころがき）がそっと揺れ、静かに秋の音色を奏でているようだった。

秋の午後、風に乗ってやってくる匂いは、金木犀のほのかな香り。どこからともなく漂ってきて、紗英の心を穏やかにさせる。この香りを嗅ぐたびに、秋が深まっていくのを感じる。

牛の膝が緩んでくるように、秋の訪れはゆっくりと、しかし確実に紗英の生活にしみ込んでいた。何もかもがゆっくりと進む時間の中で、心が静かに満たされていくのを感じた。初時雨の予感とともに、季節は一歩ずつ冬へと向かっているが、まだしばらくはこの秋晴れの日々を楽しむことができそうだ。

その夜、家族が集まり、新米で作ったご飯と鰻が並んだ食卓には、自然の恵みがたっぷりと詰まっていた。秋晴れの下で過ごすひととき、椿の実や蓮の実が静かに語りかけてくるような、そんな穏やかな季節の移り変わりを、紗英は心から感謝していた。


10月22日

牛　膝

芋の露

月

松手入

椿の実

十三夜

新米・今年米

穭

秋

初時雨

櫨の実

枯露柿

落　鰻

蓮の実

秋　晴

数珠玉

栗名月

秋　晴