季節の織り糸

後の月

後の月

10月17日、空には淡い月が昇っていた。後の月、すなわち十六夜の月。秋の静けさに包まれた夜、彼女は庭先に佇んでいた。月明かりに照らされたすすきの穂が、風に揺れながら囁くように響く。

「鳴子、こっちに来て。」

声をかけられたのは、隣に住む美しい女性、由紀だった。彼女は秋晴れの日に、よく庭で咲く曼珠沙華を愛でることが好きだった。今夜もまた、その美しさを引き立てるかのように、優雅に立っている。

「由紀さん、何をしているんですか？」

拓海は戸惑いながらも、由紀の方に足を運んだ。彼女の目の前には、小さな器に盛られた初時雨のようにしっとりとした果物があった。それは、木守柿だった。果実が輝くように見え、甘い香りが漂ってくる。

「これ、今年の秋に実った柿よ。少し食べてみて。」由紀は微笑みながら言った。

拓海は柿を一つ手に取り、皮をむいて一口かじった。甘さが口いっぱいに広がり、秋の土の香りが感じられた。彼は思わず目を閉じ、その味わいを楽しんだ。

「美味しい。由紀さんの柿は特別ですね。」

「ありがとう。でも、ただの柿じゃないのよ。この木はおじいちゃんから受け継いだもので、手入れをし続けているの。」

彼女の言葉には、懐かしさと家族への愛情がこもっていた。拓海はその瞬間、彼女の心の奥に秘められた思いを感じ取った。彼は彼女と過ごす時間が、こうした小さな瞬間に重なっていくことを望んでいた。

その夜、空には鱗雲が広がり、月の光が優しく照らしていた。二人は並んで座り、秋の宵を楽しんでいた。仲秋の空気が、少しずつ冷たくなっていくのを感じた。

「秋の芸術祭が近いわね。」由紀が言った。

「そうですね、今年はどんな作品が展示されるのかな？」拓海は話題を変えようとしたが、彼の心の中には、秋の終わりと冬の訪れが近づいているという不安があった。

「私も出品するの。昨年のように、また皆に楽しんでもらいたいの。」

「由紀さんが出品する作品、楽しみにしています。」拓海は微笑んで返した。彼女の情熱に触れることができるのは、彼にとって嬉しいことだった。

月が高く昇り、秋の夜空はさらに美しくなっていった。二人の会話は、秋の末に向かう空気に溶け込んでいく。彼女の夢、彼の願い、二人の心が共鳴するような瞬間だった。

「ねえ、拓海。」由紀が少し真剣な表情で言った。「私たち、もっとこの場所での思い出を増やしていこうよ。」

拓海はその言葉に心が動かされた。秋の美しい瞬間を大切にし、これからも由紀と共に歩んでいきたいと思った。彼は手を伸ばし、彼女の手を優しく握った。

「もちろん。これからも一緒に、いろんな景色を見ていこう。」拓海は目を輝かせて応えた。

彼女の笑顔が月の光のように美しく、彼の心に温かさをもたらした。これからの季節も、彼らは共に過ごしていくのだろう。その未来がどれほどのものであれ、彼は彼女のそばにいることを選んだ。

「じゃあ、次は紅茸を探しに行きましょう。秋の風物詩を楽しむのもいいかもしれない。」

拓海は新たな冒険を思い描きながら、由紀の笑顔を思い出した。彼女の存在が、彼の人生に色を与えていることに気づいた。その時、彼は静かに心の中で誓った。

どんな季節が訪れようとも、彼女と共に歩んでいくことを。秋の美しさを愛でながら、彼らの物語は続いていくのだった。


10月17日

後の月

十六夜

後の月

鳴　子

秋　晴

初時雨

すすき

曼珠沙華

秋の宵

宵の秋

木守柿

楠の実

秋の土

秋の末

紅　茸

藷

鱗　雲

芸術祭

仲　秋