季節の織り糸

灯火の秋 10月16日

 灯火の秋

10月16日、空は秋晴れで、風が少しひんやりとしていた。山間の町では、秋半ばの訪れを告げる静けさが漂い、村人たちの生活もゆっくりとしたリズムに変わっていた。山の木々は色づき始め、青蜜柑が鮮やかに実っている。涼しい風に揺れる草木の間を、秋の気配が満ちていた。

秋鯖の豊漁を祝う漁師たちの声が、海からかすかに聞こえてくる。山に住む佐々木宏は、毎年この時期になると、町の漁師たちから新鮮な鯖を分けてもらい、秋の味覚を楽しむのが常だった。今年も、その時期がやってきた。

「灯火親しむ秋の夜だな…」

宏は、古い家の軒先でゆっくりと灯火を灯し、穏やかな秋の夕暮れを眺めた。この時期になると、灯火の下で本を読むのが何よりの楽しみだった。夜が深まるとともに、空気が一層冷たくなるのを感じながら、彼は手に取った書物のページをめくった。

遠くでは鳥威（とりおどし）の音が響き、鳥たちを追い払うその音が風に乗って聞こえてくる。田んぼでは、農家たちが収穫を終え、名残の茶を楽しむために集まっていた。秋の終わりが近づくにつれ、こうした小さな集まりが多くなるのが村の風習だった。

「今年も無事に秋を迎えられて良かったな」

隣に住む村の古老、田中さんが話しかけてきた。彼は鹿狩りの名手として知られ、この時期には必ず山に出かけていた。今日は鹿の鳴き声が響く山々を見つめ、何かを考え込んでいるようだった。

「今年のいなつるび（稲光）は特に激しかった。だが、それもまた秋の一部だな」と田中さんは言った。

宏は頷きながら、今年の秋の風景に思いを馳せた。稲光や雷鳴、そしてその後に続く静寂は、秋ならではの特別な瞬間だと感じていた。夜空に広がる鱗雲が、その風景にさらに深みを与えていた。

家の庭には柘榴（ざくろ）が実り、赤い実が割れて、中から露わになった種子が秋の深まりを象徴しているかのようだった。榧（かや）の実もまた、庭の隅に落ちて、秋の終わりを告げるように転がっていた。

秋半ばのこの日、宏はふと遠くを眺め、これまでの人生を思い返していた。橙の木が風に揺れ、その香りが微かに漂ってくる。若い頃、彼はこの山里で暮らすことに疑問を持っていたが、今ではこの静かな生活が心の平穏をもたらしてくれると感じていた。

平茸が山道に生え揃い、秋の恵みを象徴するかのように彼の前に広がっていた。十月の空は澄み渡り、芒（すすき）が風にそよぐ音が、静かな山里の音楽となっていた。

厚岸草（あっけしそう）が川沿いで赤く染まり、秋の風景に溶け込んでいる。その風景を見ながら、宏は「ゆく秋」の訪れを感じていた。この季節が終われば、また冬がやってくる。だが、今はただ、この静けさと穏やかな秋の一日を楽しみたかった。

その夜、宏は再び灯火を灯し、静かに本を読み続けた。彼の心は、秋の風景とともに落ち着きを取り戻し、次の季節への準備をしていた。


10月16日

灯火親し

秋　鯖

灯火親し

鳥　威

秋　晴

青蜜柑

われから

名残の茶

鹿

いなつるび

柘　榴

榧の実

秋半ば

橙

平　茸

十　月

芒

厚岸草

ゆく秋