季節の織り糸

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秋の調べ 10月15日

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 「秋の調べ」

10月15日、朝露がまだ乾かぬ庭先に、佐藤美智子はふと立ち止まり、小さな水たまりを見つめた。昨夜の雨が作ったその「落し水」は、まるで庭に忘れられた秋のしるしのように静かに佇んでいた。朝方には、今年初の時雨が通り過ぎ、秋の深まりを告げている。

「今年も新米が届いたわよ」と、美智子の夫、誠一が箱を手に取ってキッチンへ運んできた。美智子は手を止め、箱に目を向けた。新米の袋が光り輝くように見えるのは、毎年のことだが、特にこの季節、秋の収穫は格別だ。

「今年も美味しいご飯が食べられるわね」

「そうだな、今年米も出来がいいと聞いた」

二人は顔を見合わせ、微笑んだ。秋になると、彼らの食卓は必ず新米で始まり、新米で終わる。毎年変わらぬこの光景が、彼らの人生に深く根付いているのだ。

家の外では、すすきが風に揺れ、庭の端には十月桜が静かに咲き始めていた。秋の花々の中でも、この桜は特別な存在感を放っている。春には当然見るはずの桜が、秋にも花を咲かせることが、彼女にとっては毎年の小さな奇跡だった。

「竜田姫の衣が風に舞うようだわ…」

美智子はすすきの間を流れる風を見ながら、そうつぶやいた。竜田姫は、古来より秋を象徴する女神として知られ、その風情ある姿が美智子の頭の中に浮かんだ。

庭の一角では、曼珠沙華が紅く咲き誇っていた。その美しさはどこか儚く、彼女に「身に入む」秋の気配を感じさせた。気温が下がり始め、空気が肌にしっとりとまとわりつくこの季節には、身体だけでなく心も少しずつ深く染まっていく。

「林檎が美味しい時期だな」

誠一がテーブルに林檎を置きながら言った。その艶やかな赤色が、秋の豊かさを象徴している。秋が進むにつれて、稲光や稲妻が夜空を裂くように光る光景が増え、それとともに秋の終わりを予感させる。

「朴の実がそろそろ落ちるわね」

美智子はそう言いながら、庭の木々を眺めた。朴の実が風に揺れて、地面に落ちる音が聞こえるたびに、彼女は秋の訪れとともにやってくる冬を思い出す。自然のリズムは彼女に、毎年同じことを教えてくれる。

そしてその夜、中秋の名月が空に輝いていた。月の光は柔らかく、家の窓から差し込んでいた。美智子と誠一は、その光を浴びながら静かにお茶を楽しんだ。茶菓子には子芋が添えられ、秋の風味を口に広げた。

「今年も小式部の時期ね」

小式部は秋雨とともに訪れる詩人だと美智子は信じていた。彼女は詩を書くことが趣味で、この季節になると、自然の中に詩的な感覚を強く抱く。雨がしとしとと降り続ける中、美智子は静かに詩を綴る時間を楽しんだ。

「鵯(ひよどり)の声が遠くで聞こえる」

誠一が耳を澄ませながら言った。鵯の鳴き声が、秋の静けさを一層際立たせ、庭に広がる秋色と響き合っていた。

その後、ふたたび稲光が遠くで光り、胡麻の実が庭の隅に揺れるのを二人は眺めていた。風が強まるたび、秋の気配が深まっていく。美智子は、手にした胡麻をそっと指で弾き、その音を聞いた。

「秋は本当に、心が静かになるわね」

「そうだな…、この時期が一番落ち着く」

二人は微笑み合い、静かに過ぎていく秋の夜を大切に味わった。


10月15日

落し水

新米

今年米

初時雨

すすき

十月桜

竜田姫

曼珠沙華

身に入む

林 檎

稲 光

稲 妻

朴の実

中 秋

子 芋

小式部

秋 雨



稲 光

胡 麻
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