季節の織り糸

春秋花壇

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秋の風景 10月12日

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秋の風景

10月12日、栞は静かな朝を迎えた。窓を開けると、金木犀の香りがふわりと舞い込み、秋の訪れを感じさせる。彼女は心地よい香りに包まれながら、庭に出ることにした。

庭に出ると、銀杏の木が黄金色に輝いていた。毎年この時期になると、彼女はこの木を見上げて思う。「この木は、どれだけの季節を見てきたのだろう。」彼女は、その悠久の時を感じ、しばし見入っていた。

栞の近所には、92歳の中村さんが住んでいる。中村さんは、若い頃の冒険や旅行の話を楽しそうに語る人だ。彼女は時折、彼と話すために庭を訪れた。中村さんは、今日も公園に向かう準備をしている様子だった。

「おはようございます、中村さん!」栞は明るく声をかけた。

中村さんは笑顔で振り向き、「おはよう、栞ちゃん。今日は公園に行くんだ。鳩に餌をあげてくるよ。」と答えた。

「私も一緒に行きます!」栞は、急いで着替え、彼と共に公園へ向かうことにした。彼女は、中村さんと一緒に過ごす時間が大好きだった。彼の話を聞くことで、世界が広がるように感じるのだ。

公園に着くと、雅子さん、中村さんの妻が鳩に餌をあげていた。雅子さんは、少し寂しそうな表情を浮かべている。栞はその姿が気になり、近づくことにした。

「雅子さん、こんにちは!」栞は元気に挨拶をした。「今日は一緒に餌をあげてもいいですか?」

「もちろん、栞ちゃん!」雅子さんは微笑みながら答えた。栞は彼女の隣に座り、一緒に鳩に餌をまく。雅子さんは、時折栞に優しい言葉をかけながら、穏やかな時間を過ごした。

「栞ちゃんは最近どうしてる?」雅子さんが尋ねる。

「小説を書いています。秋の風景をテーマにしたものです。金木犀や銀杏のことを書こうと思っています。」栞は、自分の目指していることを伝えた。

雅子さんは興味深そうに聞き、「素敵ね。私も昔は文章を書くのが好きだったの。」と語った。

その言葉に栞は驚いた。「雅子さんが文章を書くなんて、意外です!」

「でも、最近はあまり書いていないわ。中村さんが話すのが好きで、聞く方が楽しいから。」雅子さんは、夫を見つめながら微笑んだ。

栞は、雅子さんの言葉に心が温まるのを感じた。彼女もまた、言葉の力を信じている人なのだと感じた。ふたりは、秋の空の下で、鳩たちに餌をあげながら、時折会話を楽しんだ。

その後、栞は中村さんに話しかけた。「中村さん、若い頃の冒険の話をもっと聞かせてください。」

中村さんは目を輝かせて、様々な国を旅した時のエピソードを語り始めた。「ある時、山の頂上で見た夕日が、まるで宝石のようだったんだ。その美しさは言葉では表現できない。」

栞は彼の話に引き込まれ、心の中でその風景を描いた。彼女の想像力は、彼の言葉とともに広がり、まるで自分がその場にいるかのような感覚を味わった。

日が暮れかける頃、雅子さんがぽつりと言った。「私は海外には行ったことがないの。でも、中村さんの話を聞いていると、まるで行ったかのような気持ちになる。」

栞は、雅子さんのその言葉に共感しながら、彼女の目に映る景色が豊かであることを感じた。どんなに歳を重ねても、心の中には美しい思い出や感動が詰まっているのだと彼女は思った。

公園を後にする頃、栞の胸には温かい気持ちが広がっていた。「来年の秋も、また一緒にここに来よう。」彼女は、雅子さんや中村さんとの約束を心に決めた。

秋の風が彼女の頬を撫で、彼女は新たな創作のインスピレーションを得た。栞は、これからも人々とのつながりを大切にし、彼女自身の物語を紡いでいくことを誓った。




10月12日

十 月

木 犀

ぎんなん

桃吹く

秋の雨

秋 風





木守柿

ゆく秋



栃の実

十 夜

草雲雀

熊 架

秋の空

彼岸花



秋の空
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