季節の織り糸

春秋花壇

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東京16℃の夜にて

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東京16℃の夜にて

東京の秋は、どこか気まぐれだ。ついこの前まで汗ばむ日差しに戸惑っていたのに、気がつけば壊れたシャワーから滴る冷水が体に染みる。16℃の気温は、じっとしていると心地よいが、水浴びをすれば一気に寒さが襲ってくる。秋霖――止むことを知らない秋の雨が、赤く染まり始めたアメリカンハナミズキの葉を次々と容赦なく落としていく。

「またか…」

窓の外を見やりながら、私はシャワーの蛇口を閉めた。こびりついた冷えは皮膚の内側にまで達し、体が震える。壊れたシャワーをなんとかしなきゃと思いながら、いつの間にか放置してしまっているのは、きっとこの秋の気だるさのせいだろう。シャワーから逃げるように、湯船に浸かることを選んだ。

湯を20分かけて沸かさなければならない。この時間が、今日も長い秋の夜の始まりを告げる。窓の外は暗く、雨音だけが静かに響く。この雨は、紅葉し始めた木々の葉を強引に地に引きずり下ろし、冷たいアスファルトに広がる水たまりに変える。それは、まるで自分がどこかに落ちていくような気分を引き起こす。

けれど、この季節に私は決して嫌な気分ばかりを感じているわけではない。むしろ、五感が鋭く研ぎ澄まされるように感じるのだ。秋は、外の世界が少しずつ静かになり、自分と向き合う時間が増える季節。五感を研ぎ澄まし、自分自身を見つめ直すには絶好の機会だ。

湯船に浸かりながら、私はアルファポリスのページを開いた。今日はどんな物語に出会えるのだろう。現実の喧騒を忘れ、物語の中に身を投じるのが最近の習慣となっている。指先でスクロールを繰り返し、物語の中の登場人物たちに共感し、時には苛立ち、またある時には共に喜ぶ。現実の世界では感じにくくなった感情が、物語を通して蘇る。秋の夜長、これが私のささやかな楽しみだ。

この時間は、私にとって単なる娯楽の時間ではない。五感を通じて感じたことを言葉に変える練習、そして人をもてなす心を育む時間でもある。表現力を磨くこと、それは私の目標の一つだ。日々の小さな出来事や感情を的確に、そして豊かに表現できるようになることが、今の私の成長の糧だ。

最近よく考えるのは「レジリエンス」――どんな状況にあっても、自分を失わずに立ち直る力のことだ。シャワーが壊れて寒さを感じる日もあれば、暑さにうんざりする日もある。それでも、その中で自分らしくいること、楽しみを見つけることができるなら、それが私にとっての「レジリエンス」なのだろう。寒さも雨も、そして心の揺らぎも、すべてを糧にして強くなれる気がしている。

「お風呂、あと少しで沸くかな…」

窓の外を見ると、雨はまだ止む気配がない。秋を通り越して、もう冬が近づいているのかもしれない。そんなことを考えながら、私は湯船に体を沈めた。温かい水が肌に触れ、冷たさが徐々に溶けていく。この瞬間のために、私は長い時間を待っていたのかもしれない。

秋の夜長、湯船に浸かりながら、私はまた物語の続きを読もうと決めた。







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