季節の織り糸

秋の訪れ 10月5日

秋の訪れ

秋の日が柔らかい光をもたらし、外の世界を金色に染め上げている。秋風が吹くたび、木々がそよぎ、枯葉が舞い上がる。私は、実家の縁側に座り、静かにその光景を眺めていた。今日は、家族と一緒に秋の作業をする日だ。

「死人花（しびとばな）が咲いているよ。」母が声をかけた。秋の訪れと共に、曼珠沙華（まんじゅしゃげ）が庭に色を添えている。真っ赤な花弁が、どこか神秘的で、時折幽霊花（ゆうれいばな）と呼ばれる理由もわかるような気がした。

「綺麗だね。」私は花を見つめながら、少し思いを巡らせた。子供の頃、花の近くを通ると不思議な気持ちになったものだ。まるで死者の思いが宿っているかのようで、でもそれが不気味ではなく、どこか心を穏やかにするものだった。

庭の隅には、釣瓶落し（つるべおとし）があった。秋の風が吹くたび、揺れる竹が心地よい音を奏でている。私はその音を聞きながら、頭の中に子供時代の思い出が蘇ってきた。よく、友達と一緒に遊んだあの場所。

「秋の風が気持ちいいな。」私は母に言った。母は微笑んで、「この風が、実りの秋を運んでくれるのよ。」と答えた。そう言えば、近くの田んぼでは中稲（なかいね）が収穫を迎えているという話を聞いた。

昼食の準備をしながら、皀莢（さやえんどう）の味噌汁を作る母の姿を見ていると、心が和む。柚子味噌（ゆずみそ）の香りが漂い、さらに食欲をそそる。食卓が賑やかになるのが待ち遠しい。

「今日は鴨が来るかもしれないね。」父が言った。彼は毎年、秋になると鴨を見に行くのが楽しみだった。私は、彼の期待を一緒に感じながら、庭の池を見つめた。自然がもたらす恵みに、感謝の気持ちを込めて。

昼食を終えた後、私たちは障子貼（しょうじばり）をすることにした。古くなった障子を貼り替えるのは、毎年の恒例行事だ。母と一緒に障子紙を持って、慎重に作業を進める。月明かりのように白く、透けて見える障子紙が、新たな光を家に取り込んでくれる。

「子供の頃は、これがすごく大変だったけど、今は楽しいね。」私は言った。母は笑いながら、「そうよ、年を重ねると、こういう作業も楽しめるようになるのよ。」と返してくれた。

秋の日差しが穏やかに差し込み、私はその中で温もりを感じた。静かな時間が流れ、自然のリズムに身を委ねる。秋の風が心を洗ってくれるような感覚が、何とも言えない安らぎをもたらした。

作業を終え、私たちは家の前に腰を下ろした。風が吹き抜けるたび、草木の匂いが心に沁みる。あの日、友達と遊んだ庭で、今は家族と一緒に過ごす。この場所には、変わらぬ思い出が詰まっている。

「そろそろ夕食の準備をしよう。」母が言った。私は立ち上がり、家の中へ向かった。その瞬間、ふと見上げると、秋の空に鴨が飛んでいくのが見えた。彼らの羽音が、秋の訪れを知らせているようだった。

「来年もまた、鴨が来るといいな。」私は心の中で願った。自然の流れに身を任せながら、秋の日を楽しむ。そんな穏やかな時間が、いつまでも続いてほしいと願うのだった。


10月5日俳句季語

秋の日

秋風

死人花　幽霊花

秋の風

曼珠沙華

釣瓶落し

秋の風

皀莢

芒

秋の日

秋の風

柚子味噌

根釣

障子貼

月明

秋の日

中稲

鴨来る