季節の織り糸

草虱の恋

草虱の恋

秋の風が心地よく吹き抜ける頃、尚人は彼女と一緒に近くの公園を散歩していた。空には鰯雲が広がり、秋夕焼の淡い色が空を染めていた。彼は、幼い頃からの親友である亜美に心を寄せていた。彼女は、その日も鮮やかな赤い曼珠沙華の花のように美しく、尚人の心を掴んで離さなかった。

「見て、あの柿の木、たわわに実ってるね」と亜美が指を差す。彼女の声には、秋の訪れとともに感じる高揚感があった。尚人はその視線を追いながら、彼女の笑顔を見つめた。彼女の存在は、彼にとって秋の風よりも心温まるものだった。

「もうすぐ、収穫の季節だね」と彼は言った。心の奥底で、亜美との関係がもっと深まることを願いながら。実際、彼は彼女との時間を大切に思っていた。しかし、その気持ちをうまく言葉にすることができずにいた。草虱が茂る公園の小道を歩く二人は、互いに言葉を交わしながらも、心の中では何かを求め合っていた。

「ねぇ、尚人、来週の祭りに行かない？」亜美が突然尋ねた。彼女の目は輝いており、まるで新酒のようにフレッシュな期待感があった。

「もちろん、行こう！」尚人は思わず声を弾ませた。亜美と一緒に過ごす時間が、彼にとって何よりの楽しみだったから。彼は、祭りで彼女の手を引いて、いろんな屋台を巡ることを想像した。その瞬間、彼の心は少し高揚した。

二人は公園の隅にある稲架の下で立ち止まり、草の香りを楽しんだ。尚人は亜美の手を握りたくてたまらなかったが、なぜかその瞬間が訪れることはなかった。彼女との距離が、心の中で縮まっていくのを感じながらも、手を伸ばす勇気がなかった。

「尚人、秋薔薇が咲いているよ」と亜美が花を指差した。彼女の目がその美しさに引き寄せられていく様子を見て、尚人は少し羨ましく感じた。彼女が他のものに夢中になっている姿が、少しだけ寂しい気持ちにさせた。

「この花、綺麗だよね。私、こういう花が好きなの」と彼女は微笑んだ。尚人はその微笑みが、彼の心に何かを呼び起こすのを感じた。「もし、僕が君に何か贈るとしたら、これがいいかな」と言いながら、心の中で葛藤していた。

「尚人、私ね、今年の秋が特別だと思うの」と亜美が続けた。彼女の声には、真剣な響きがあった。「この秋は、何か大きな変化がありそうな気がするの。新しい出会いとか、思い出とか。」

その言葉に尚人はドキッとした。自分の気持ちがこのままでいいのか、彼女に伝えるべきではないかと迷っていた。心の中で何度も繰り返す言葉があった。「亜美、僕は君を好きなんだ。」

「そうだ、告白しよう」と尚人は決心した。秋の夜空の下、月光が二人を照らす中、彼は自分の気持ちを伝えることにした。彼女と過ごした日々の中で、彼女が自分の特別な存在であることに気づいていた。

「亜美、実は僕、君に言いたいことがあるんだ」と尚人は少し緊張しながら言った。彼女は驚いたように振り向き、その瞳に期待の色を浮かべていた。彼女の心が、自分の言葉を待っているように感じた。

「僕は、亜美が好きだ。君と一緒にいたい。君の笑顔が僕を幸せにしてくれる」と尚人は言った。その瞬間、周囲の音が消え、心の中で高鳴る鼓動だけが聞こえた。秋の風が二人の周りを流れ、草虱の香りが漂ってくる。

亜美は少し驚いたように目を大きく開いたが、次の瞬間、彼女はにっこりと微笑んだ。「私も、尚人が好き。あなたと一緒にいると楽しいし、心が温かくなるの。」

その言葉を聞いた瞬間、尚人の心は弾けるように喜びで満たされた。彼女の笑顔は、まるで秋の薔薇のように美しく、彼の心に新たな希望をもたらしてくれた。二人は、秋の夜空の下で手を繋ぎ、未来への一歩を踏み出した。

これからの季節、草虱が茂る公園での散歩が、彼らの思い出となるだろう。尚人は、自分たちの関係が新たな秋の訪れとともに深まることを心から願っていた。彼の心には、亜美との特別な時間がこれからも続くことを信じていた。


10月2日

草虱

秋の風

曼珠沙華

芒

鰯雲

稲架

露寒

柿

そぞろ寒

月光

秋夕焼

豇豆

新酒

天狗茸

月光

秋夕焼

秋薔薇

鶏頭