季節の織り糸

九月尽の秋薔薇 9月30日

「九月尽の秋薔薇」

9月30日、秋も深まり、季節の移ろいを感じさせる日々が続いていた。夕暮れには鰯雲が広がり、風が涼しさを増していく。里山には曼珠沙華が赤く咲き誇り、秋の声が木々の間から静かに響いていた。その中に立つ一人の女性、綾香は、しんとした静けさを心に受け止め、軽く目を閉じた。

「秋はいつも、心が少し寂しくなるわね」

彼女はそう思いながら、庭に咲く秋薔薇を見つめた。その花は、春の華やかな色合いとは異なり、控えめな優雅さを持ち、朝露に濡れて静かに風に揺れていた。

秋の日差しが弱まりつつある中、綾香はゆっくりと庭を歩きながら、ふと空を見上げた。浜菊が淡い黄色の花を咲かせ、かささぎが青空を横切るのが見えた。風の色は透明で、どこか冷たさを含んでいたが、それが心地よい。

「富士の初雪が降ったらしいわよ」と、近所の老婆が言っていたことを思い出す。

富士山が初雪を迎えると、いよいよ秋も深まるのだと、綾香は感じた。芒の穂が風に揺れる光景は、秋の象徴の一つであり、彼女の心に穏やかな安らぎをもたらしてくれた。空は澄み、鰯雲がゆっくりと流れ、月光が静かに夜を照らし始める。夜になると、虫の鳴き声がすいっちょと聞こえ、自然のリズムに身を委ねるように感じられた。

「もう九月も終わりか…」と綾香は呟いた。

九月尽、つまり九月の終わり。この言葉が持つ響きに、彼女は少しの感傷を覚えていた。時間が過ぎるのは早いものだ、としみじみ思いながらも、過ぎゆく季節を受け入れる準備ができている自分に気づいた。

そんな日々の中で、綾香はあることを考え始めていた。それは、自分の人生の節目をどう過ごすかということだ。これまで、彼女は何度も悩み、立ち止まり、また歩き出してきた。今、秋が深まるこの時期に、彼女は自らに問いかける。

「これからの私は、どこに向かうのだろう？」

過去の出来事にとらわれることなく、未来を描き出す。アドラー心理学の教えの一つである「課題の分離」という考え方が、綾香の心に強く響いていた。彼女は、自分の人生は自分の課題であり、他者の期待や評価に縛られる必要はないと理解した。自らの道を進む勇気を持ち、他人にどう思われるかを恐れずに歩むこと、それが今の彼女にとっての挑戦だった。

庭の片隅に、葛の蔓がゆっくりと伸びているのを見て、彼女は自然の力強さに感心した。秋という季節は、終わりと始まりが交錯する不思議な時期だ。すべてが静かに変化していく中で、自分自身もまた、新しい道を歩み出そうとしているのだ。

庭を歩きながら、彼女は草牡丹の淡い紫色の花に目を留めた。生命の儚さと美しさを感じさせるその姿は、どこか自分自身の心情を映し出しているように思えた。

そして、彼女はそっと目を閉じ、深呼吸をした。秋の薔薇の香りが風に乗って漂い、心を落ち着けてくれる。日差しが少しずつ陰り、秋日傘を畳みながら、綾香は最後に一つの決意を胸に抱いた。

「どんな道でも、自分で選んで進むことが大切なんだ。周りに何を言われようとも、それが私の課題である限り、自分の信じる道を歩いていこう」

彼女は再び、秋薔薇の前に立ち、微笑んだ。その花は、まるで彼女の新たな決意を象徴しているかのように、静かに咲き続けていた。


9月30日

秋の山

曼珠沙華

秋の声

芒

鰯雲

月光

葛

九月尽

風の色

かささぎ

浜菊

すいっちょ

富士の初雪

草牡丹

大文字草

衣被

秋薔薇

秋日傘