季節の織り糸

9月28日 秋の声

「秋の声」

9月28日。秋の訪れを感じさせる日、都会の喧騒から離れた田舎町では、曼珠沙華の赤い花がひときわ目を引いていた。この時期になると、町の周りの田んぼや野原には、彼岸花が鮮やかに咲き誇る。子供の頃、祖母と一緒にこの花を見に行ったことを思い出し、心が和む。

その日は特に、立待の時間がゆっくりと流れていた。秋の風が心地よく、空は高く、澄み渡っている。私は田舎に住む叔母の家を訪れていた。彼女の家の裏には、毎年豊作を誇る蕎麦畑が広がっている。実は、この時期になると、蕎麦の実が実り、走り蕎麦が収穫されるのだ。香ばしい香りが漂い、町の人々はこの蕎麦を待ちわびている。

「秋は、豊の秋だね」と、叔母が私に言った。彼女は、畑から摘んできたばかりの萩の花を生けて、部屋に飾る。秋は、収穫の喜びを感じさせる季節だ。叔母はこの時期、いつも忙しく働いている。

午後の光がやわらかく差し込み、私は窓辺に座り、外の景色を眺めた。豊の秋の風景は、心を穏やかにしてくれる。ふと、目に入ったのは葈耳（あおい）という植物の葉。虫たちがそれを食べる音が微かに聞こえ、自然の営みを感じることができる。

しかし、秋の虫たちは、少しずつ秋寒をもたらしていた。朝晩の気温が下がり、着込むものを考えなければならなくなった。この変化に心が引き締まる思いがする。「もうすぐ冬が来るのね」と、思わずつぶやく。

その日の夕方、夕焼けが美しく染まる中、私はふと思い出した。子供の頃、祖母がよく「不知火（しらぬい）」の話をしてくれた。秋の夜、海から不気味な光が現れるという伝説。それは、この町にまつわる不思議な物語だった。

日が沈み、夜になると、私はその伝説を思い出しながら、龍淵に潜むと言われる神秘的な生き物について考えた。あの時代、子供たちは怖がりながらも興味を持っていた。「本当にいるのかな」と想像を巡らせていたものだ。

「捨案山子（すてあんがし）」を見つけると、さらに不思議な気持ちが高まった。田んぼの中に、案山子が立っている。動かない彼に心を寄せると、まるで彼が何かを知っているかのように思えてくる。時折、風が吹くと、彼が微かに動いているように見えるのだ。

叔母は台所で何かをしている。私は彼女の手伝いをすることにした。定家忌（ていかき）の日、古い和歌のことを思い出しながら、少しずつ秋の食材を使った料理の準備をする。

「豊の秋は、食卓を賑やかにしてくれるわね」と、叔母が笑う。私もその笑顔に元気をもらう。キッチンの中には、さつまいもや栗、そして新鮮な野菜が並んでいた。今夜は、みんなで夕食を囲む予定だった。

夕食の準備が整い、私たちはテーブルを囲んだ。食事をしながら、私たちは昔話や最近の出来事を語り合った。叔母の話には、笑いが絶えなかった。私は、その温かい雰囲気が大好きだった。

食後、少し休んでいると、叔母は「夜なべ」を始めると言った。何かを作りたいと意欲的に取り組む姿は、若いころから変わらない。私も手伝うことにした。

夜は静かに深まっていく。田舎の夜は、都会の雑音とは無縁だ。かすかに聞こえる虫の音が心地よく、私はいつの間にか夢の世界に入っていった。

その時、ふと思い出した。「秋の声は、心に響くものだ」と。秋は、過ぎ去った季節を振り返り、新たな思い出を作る時間でもある。これからも、こうして叔母と過ごす時間を大切にしていきたいと思った。

時が経ち、朝が訪れた。新しい一日が始まる。外に出ると、秋の香りが漂っていた。曼珠沙華の花が咲き誇る中で、私は新しい豊の秋を迎えることを心待ちにしていた。


9月28日

秋の声

曼珠沙華

立待

走り蕎麦

萩

豊の秋

葈耳

虫

秋寒

不知火

葉月

龍淵に潜む

捨案山子

定家忌

豊の秋

芋 

杖

夜なべ