季節の織り糸

春秋花壇

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秋の音色

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「秋の音色」

9月13日、村はすっかり秋の気配に包まれていた。朝早く、清々しい新涼が吹き抜け、空には雲一つない青が広がっている。「天高し」という言葉がぴったりの快晴だ。田んぼのあぜ道には、木彫りのような案山子が立っている。少し風に揺れ、その周りを子供たちが飛び跳ねて遊んでいるのが微笑ましい。

村の一角にある小さな庭では、清吉が庭木を刈っていた。夏の間に伸びた枝を丁寧に整え、庭をきれいに保つのが彼の日課だ。庭先には朱欒(しゅろん)と呼ばれる柑橘類が実り始め、爽やかな香りが風に乗って漂っていた。庭木を刈る音が、虫たちの奏でる音楽に混じり、秋の静かな時間を一層引き立てている。

庭では蟋蟀(こおろぎ)の鳴き声が響き渡っている。虫の音はどこか懐かしく、心を和ませる。秋の夜長に聞くと、まるで音楽のように感じられた。バッハの音楽を聴いているかのように、規則正しい虫たちの合奏が続く。その中には、蟷螂(かまきり)の姿もあり、草むらでじっとしている。じっと目を凝らすと、彼の鎌が風に揺れているのが見えた。

空を見上げると、夜には天の川がきれいに見えるという噂が広がっていた。「三五夜(みこよ)」と呼ばれる名月の夜も近い。村の子供たちは、それを楽しみにしている。台風が近づいているという情報もあるが、今のところは穏やかな秋気が漂っていた。

清吉は葡萄の棚を見上げた。今年は豊作で、房がたわわに実っている。彼は、少しずつ収穫しながら村の人々に分け与えていた。その一方で、秋の蜂が飛び回っているのも見かけた。蜂たちは甘い香りに誘われて、葡萄の周りを飛び交っていたが、清吉はそれが秋の風物詩のように思えた。蜂の活動は、どこか忙しないが、自然のサイクルの一部だと感じた。

夕方になり、村全体が黄金色に染まる頃、清吉は小さなラジオを取り出した。バッハの曲が流れてきて、秋の音色と一緒に心地よい音楽が耳に入ってくる。彼は庭先のベンチに座り、少しの間目を閉じて音楽に身を委ねた。虫たちの鳴き声、遠くの田んぼで風に揺れる稲穂、そしてバッハの旋律がひとつになり、村の風景はまるで一つの大きなオーケストラのようだった。

夜が近づくと、虫たちの声はさらに高まり、秋の夜を彩った。清吉は一杯の日本酒を傾けながら、ゆっくりと夜空を見上げた。天の川がかすかに見えるその光景は、言葉にできない美しさだった。秋の夜風が彼の頬を撫で、どこか懐かしい思い出が浮かんでくる。「今年も、またこんな季節がやってきたな…」と、清吉はひとりつぶやいた。

村の静けさと、虫たちの合奏、バッハの音楽が重なり、時間がゆっくりと流れていく。その中で、彼は秋の深まりを全身で感じていた。日が完全に落ちると、村は暗闇に包まれたが、それでも虫たちの音は途切れることなく続いた。清吉はその音に耳を傾けながら、穏やかな眠りに就いた。

その夜、村は静かに夜を迎え、空には星々が輝いていた。遠くに台風の影響で風が少し強くなったものの、秋の静けさを乱すことはなかった。清吉は布団に包まれながら、翌日の仕事のことを思い描いていた。庭木の手入れ、葡萄の収穫、そして秋祭りの準備。忙しさの中にも、秋の豊かさが感じられる日々だった。

「明日もきっと、いい日になるだろう…」彼はそう思いながら、ゆっくりと目を閉じた。秋の夜長、虫の音に包まれながら、村は静かに眠りについていた。

おわり


***


9月13日

蟋蟀

案山子

新涼

虫の音

蟷螂

天高し

天の川

台風

秋気

秋の蜂

虫の音

三五夜

バッハ

庭木刈る

朱欒

葡萄
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