季節の織り糸

春秋花壇

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秋の音

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「秋の音」

9月5日、澄んだ秋空が広がる中、風が田んぼの上を優しく吹き抜ける。稲の穂が黄金色に輝き、収穫の時期を迎えた田んぼが一面に広がっていた。稲の花が咲き、ほんのりとした香りが風に乗って漂う。その中を歩く田守の老人、松田三郎(まつだ さぶろう)は、静かに秋の気配を感じていた。

「今年も良い稲だな」

三郎はそう言いながら、一本の稲を手に取り、その穂を優しく撫でた。長年この田んぼを守り続けてきた彼にとって、収穫の時期は何度経験しても心が高鳴る瞬間だった。だが今年は少し違った。息子夫婦と孫が都会へ引っ越してから、三郎は一人でこの田を守り続けていたのだ。田守の仕事は孤独だが、稲たちと過ごす時間が何よりの慰めだった。

ふと、近くの木からコツコツと木をつつく音が聞こえてきた。啄木鳥(きつつき)だ。三郎は音のする方へ目を向けた。鳥はせわしなく動きながら木をつついている。その姿を見て、三郎は自分の仕事と重ね合わせた。稲を育て、守り続けることは、啄木鳥が木をつつき続けるように、終わりのない営みだ。

「啄木鳥も俺も、せっせと仕事を続けてるんだな」

三郎は小さく笑って、再び田んぼに目を戻した。上空には高く秋雲が浮かび、秋の空は透き通るように青い。秋草が風に揺れ、そこには露が白く輝いていた。これを「白露(はくろ)」という。露が草に落ち、夜露が残る朝の光景は、三郎にとって何よりも美しい瞬間だった。

夜になり、空は一段と澄み渡った。三郎は家の縁側に座り、静かに夜空を見上げていた。夜の秋は涼しく、心を静める時間だ。遠くで秋刀魚(さんま)が焼ける匂いが漂い、食卓の風景が浮かんでくる。息子夫婦と孫と一緒に囲んだ食卓の記憶が、秋の風とともに蘇る。

天の川がはっきりと見える夜空に、三郎は目を奪われた。銀河がきらめき、流れ星が一筋の光を描いて落ちていく。その瞬間、三郎は心の中で小さな願いを込めた。家族の無事と、また一緒にこの田んぼで過ごせる日を夢見て。田守の仕事は三郎にとって誇りであり、いつか息子が戻ってくることを期待していたのだ。

「秋の夜も、こうして見てると悪くないな」

三郎は一人言をつぶやき、縁側に置かれた胡桃(くるみ)を手に取った。秋になると、胡桃の木も実をつけ、収穫の時期を迎える。三郎はその硬い殻を割りながら、胡桃の中の実を楽しみにしていた。若いころは、孫にこの胡桃を割って食べさせていた記憶がよみがえる。今は自分一人の楽しみとなってしまったが、それでもこの瞬間は心が温かくなる。

翌朝、三郎は再び田んぼに出た。秋草が朝の光に照らされ、露がきらめいている。田の中には鰡(ぼら)が泳いでいた。川から上がってきたのだろう。蛇も穴に入るころ、動物たちも冬支度を始める時期だ。

「自然の営みは偉大だな」

三郎はそう呟き、静かに歩き出した。日々の変化を感じ取りながら、田んぼの守りを続ける。それが彼の生きがいであり、心の支えだった。秋が深まるにつれて、風は冷たくなるが、三郎の心は温かい。稲の穂が揺れる音、啄木鳥のつつく音、川の流れ、そして夜露の冷たさすべてが三郎の生活の一部であり、心を満たしてくれるのだ。

夕方になると、また銀河が輝き始めた。三郎は縁側に座り、ゆっくりと時間が過ぎていくのを感じていた。流れ星が一つ、また一つと夜空に現れる。三郎はその光に目を細めながら、心の中で願った。

「また家族と一緒に、ここで過ごせますように」

秋の夜は長いが、その時間は決して孤独ではない。自然の声を聞きながら、三郎は静かに微笑んだ。明日も、また田んぼで稲と過ごす日々が続く。秋の音を感じながら、三郎はその一瞬一瞬を大切にしていくのだった。

秋の訪れとともに、日々の営みが続いていく。三郎の心の中には、秋の空と同じように澄み切った静けさと、やがて来る春への期待が静かに息づいていた。


9月5日

啄木鳥

天高し

白露(はくろ)

秋雲

秋刀魚

天の川

秋草

蛇穴に入る

秋の夜



夜の秋

夜露

稲の花

田守

銀河

流れ星



胡桃
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