季節の織り糸

沖縄の夏と秋の交差点

「沖縄の夏と秋の交差点」

沖縄の夏がまだ残る九月、碧い空がどこまでも続く。太陽の光は強烈で、白い砂浜と青い海が一つに溶け合っているように見えた。ミカはその光景をぼんやりと眺めながら、自宅の縁側に座っていた。夏の終わりを告げる蜩の声が、静かに風に乗って響いている。秋の気配をほんのわずかに感じさせる風が、爽籟のように木々の間を抜けていく。

縁側の横には、祖母が育てているほほづきの鉢植えが並んでいた。赤く色づいたほほづきの実が、ミカに幼い頃の記憶を思い起こさせる。祖母は毎年、ほほづきの実を取り出し、乾かして飾りにしていた。その作業を手伝うことが、夏の終わりの恒例行事だった。今では祖母も歳を取り、手先の細かい作業はミカが代わりに行っている。

「ミカ、今年もほほづきの実を乾かすかい？」祖母の声が縁側に響いた。小柄で白髪の祖母は、ゆっくりと歩いてミカの隣に腰を下ろした。

「うん、乾かしたら部屋に飾るよ。」ミカはにっこりと微笑み、ほほづきの実を手に取った。

「そうか、ありがとね。」祖母は微笑んだ。その笑顔は、何十年もこの島で過ごしてきた人の穏やかさを物語っていた。

縁側から見える庭には、南瓜が育っていた。夏の間に大きく育った南瓜は、秋の収穫を待っている。ミカは南瓜を見つめながら、ふと思い出したように立ち上がった。「ちょっと、糸瓜水を取りに行ってくるね。」

ミカは庭の奥にある井戸に向かった。井戸のそばには糸瓜が生い茂り、収穫したばかりの糸瓜を水に浸していた。その水は、昔から美肌効果があるとされ、特に祖母が大切にしていたものだ。ミカは糸瓜水を小さな瓶に詰め、祖母のもとへ戻った。

「これ、祖母のために取ってきたよ。まだまだ暑いけど、少しでも涼を感じて。」ミカは瓶を祖母に手渡した。

「ありがとう、ミカ。暑さがまだ続くけど、こうして少しずつ秋が近づいてくるんだね。」祖母は瓶を受け取り、感謝の気持ちを込めてミカを見つめた。

沖縄の秋は、内地に比べて遅くやってくる。日中の暑さはまだ厳しいが、夜になれば涼新たな風が吹き始め、少しずつ秋の訪れを感じることができる。ミカは祖母と共に縁側で過ごしながら、流れ星が見えないかと夜空を見上げた。しかし、街の灯りが強く、流れ星を見るには少し難しいようだった。

翌朝、ミカは祖母と共に墓参りに出かけた。墓洗いの行事は、この地域では重要な年中行事の一つであり、祖先を敬う心が込められている。二人は手を合わせ、先祖たちへの感謝を伝えた。墓を洗う水の滴りが、静かな祈りのリズムを刻んでいた。

帰り道、ミカは祖母と一緒に蕎麦の花が咲く畑を見に行った。白い花が一面に広がり、その美しさにミカは目を奪われた。「蕎麦の花、こんなに綺麗なんだね。」

「うん、これも秋の訪れだよ。花が咲いて、やがて実がなって、それをいただくのが楽しみなんだ。」祖母はそう言って、穏やかな笑顔を浮かべた。

その夜、ミカと祖母は家の庭で大文字の送り火を眺めた。送り火は先祖を見送るためのもので、沖縄でも特別な行事だ。灯火がゆらゆらと揺れながら夜空に映る光景は、どこか神聖なものを感じさせた。ミカは祖母と手をつなぎながら、その光景を心に焼き付けた。

「また、秋がやってくるね。」ミカは小さな声で呟いた。

「そうだね。季節は巡るけれど、そのたびに新しい思い出ができるのよ。」祖母の言葉に、ミカは静かに頷いた。

沖縄の夜はまだ暑く、秋暑しの気配が残っていたが、風に乗る爽籟と共に新しい季節が確実に近づいていた。ミカはその風を肌で感じながら、祖母とのひと時を大切に思い続けた。そして、秋の香りを含んだ風が吹く中で、二人は静かに時の流れを楽しんだ。

祖母のそばで過ごす時間は、何にも代え難いものであった。季節が巡り、また新しい花が咲き、実が成るその時まで、ミカはこの縁側で祖母と共に季節を感じながら過ごすのだろう。沖縄の夏と秋が交差するその瞬間を、二人は心に刻んでいく。


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8月28日季語

扇

南瓜

ほほづき

蜩

滴り

糸瓜水

撫子

流れ星

爽籟

秋暑し

蕎麦の花

鰺

稲の花

涼新た

墓洗ふ

墓参

大文字

沖縄