季節の織り糸

手紙に綴る、夏の終わり

手紙に綴る、夏の終わり

彩香は、夏の終わりを告げるかのようなひぐらしの声を聞きながら、机に向かって手紙を書いていた。手紙の宛先は、祖母が住む古い日本家屋だった。

「行く夏を惜しむように、ひぐらしの声が聞かれる頃となりました。その後お変わりございませんでしょうか。」

そう書き始めた彩香の手は、一瞬止まった。祖母との思い出が、まるで目の前に広がる風景のように鮮やかによみがえってきた。毎年この時期になると、祖母と共に過ごした日々を思い出す。祖母の庭で行われた施餓鬼の供養、庭に咲く花々の香り、そして祖母の優しい笑顔。

「今年もまた、あの庭でひぐらしの声を聞いているのでしょうか。私は元気ですので、どうかご安心ください。」

彩香は続けて書きながら、昨年の夏のことを思い出していた。祖母と過ごしたその夏は、彩香にとって特別な意味を持っていた。長い時間をかけて、祖母と共に過ごすことで、彩香は少しずつ自分自身を見つめ直すことができたのだ。

「おばあちゃん、今年も施餓鬼を行うのですね。私もお手伝いできたらよかったのですが、学校が忙しくて、どうしても帰れません。」

彩香の胸には、祖母への感謝とともに、離れて暮らすことへの寂しさが募っていた。祖母と過ごした日々が、彩香の心に深く根付いていることを実感しながら、彼女は手紙を書き続けた。

「先日、学校で先生が秋の詩を紹介してくれました。私はその詩を読んで、おばあちゃんと過ごした庭の景色が浮かんできました。秋の訪れを感じながら、おばあちゃんの家で過ごした日々が、とても懐かしく思い出されました。」

彩香は、その詩の一節を思い出しながら、手紙に書き添えることにした。詩は、秋の訪れを告げる風や、庭に咲く花々の美しさを描写したもので、彩香にとって祖母の庭を象徴するような詩だった。

「この詩を読んでいると、まるでおばあちゃんの庭にいるような気持ちになります。あの庭の花々や、ひぐらしの声が私の耳に響いてくるようです。」

彩香は、祖母の家で過ごした静かな時間を思い出しながら、さらに手紙を書き進めた。夏の終わりに近づくにつれて、彩香は祖母との時間がどれほど大切だったかを再確認していた。学校生活に追われる日々の中で、祖母の存在がどれほど自分を支えてくれていたかに気付かされたのだ。

「おばあちゃん、どうかお体を大切にしてください。私も元気で頑張っています。次にお会いできる日を楽しみにしています。」

彩香は手紙の最後にそう書き添え、手紙を封筒に入れた。封を閉じる前に、もう一度手紙を見直して、祖母への思いがしっかりと伝わっているかを確認した。

「これで大丈夫。」

彩香はそう呟きながら、手紙を封じた。封筒に切手を貼り、投函する準備が整った。

翌朝、彩香は早起きして、駅前のポストに手紙を投函した。手紙が祖母のもとに届くのを楽しみにしながら、彩香は学校に向かった。日常の忙しさに追われる中で、祖母への手紙が届いたら、どんな返事が来るだろうかと考えるだけで、彩香の心は少し軽くなった。

祖母との繋がりを感じながら、彩香は秋の訪れを静かに待ち望んでいた。秋風が吹き始める頃、祖母からの返事が届くのが楽しみで仕方なかった。手紙を書くことで、彩香は少しだけ祖母との距離を縮めることができたような気がしていた。

祖母からの返事が届く日、その手紙が彩香にどんな喜びをもたらすのかは、まだ知らない。しかし、彩香はその日を心待ちにして、日々を過ごしていた。