季節の織り糸

春秋花壇

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秋の夜、短き命の物語

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秋の夜、短き命の物語

秋の夜が静かに深まる。茜草(あかねぐさ)の葉が揺れる庭の片隅で、夜の闇はしんと広がっていた。秋の蝉が最後の鳴き声を絞り出すように響かせる中、彩音は縁側に腰を下ろし、手元の夏の名残を見つめていた。彼女の手には花火の残り殻が握られており、その黒ずんだ紙筒が夏の終わりを象徴していた。

「花火も終わり、朝顔も枯れてしまった…」

彩音は、ほんの数週間前まで元気に咲いていた朝顔を思い出しながら、小さな溜息をついた。夏の夜に星月夜を見上げ、仲間たちと笑いながら打ち上げた花火。その光の残像が、今ではただの殻として手の中に残っている。季節は移り変わり、今朝の庭には茗荷の子が顔を出し、蓮の花が静かにその花弁を閉じていた。

秋暑し、日中はまだ夏の名残が感じられるが、夜の涼しさが彩音の心を癒してくれる。彼女は目を閉じ、遠くで鳴く秋の蝉の声に耳を澄ます。これもまた、短い命を全うしようとする一つの音に過ぎない。彩音はその音に、自らの心の声を重ね合わせる。

「私も、この命を精一杯生きなければ…」

星月夜の空には、有明の月が静かに輝いている。その光が庭の花々に優しく降り注ぎ、茜草の葉を淡く照らしている。彩音はふと、沖縄で過ごした夏の日々を思い出した。あの青い海と、桃のように甘い風景。彼女はその時、永遠のように思えた夏の日差しの中で、何もかもがこのままで続くと思っていた。

だが、季節は必ず巡り、秋がやってくる。下り簗の流れに乗せられるように、時は過ぎ去り、あの夏の日々も遠くへ流れていく。彩音はそんな時の流れを感じながら、とんぼが静かに飛び回る様子を見つめる。秋の風物詩、落蝉も地に落ちて、その一生を終えようとしていた。

「この世界には、すべてが一瞬の輝きを持っている…」

彩音はそう思いながら、夜空を見上げる。星月夜の空には、再び月が顔を覗かせていた。その光が庭の片隅に照らし出したのは、小さな孑孑(ぼうふら)が水面を揺らす姿だった。彼らもまた、短い命を精一杯生きようとしている。

秋の夜、彩音は自分が生きている意味を考える。その中で感じたのは、短い命の中にも確かな価値があるということ。星月夜に照らされた庭の風景は、彼女にとって大切な思い出と新たな決意を繋ぐ場所となった。

「私も、この秋をしっかりと生きていこう」

彩音はそう心に誓い、静かに縁側から立ち上がる。夜の茜草の葉が揺れる庭を後にし、彼女は再び明日へと歩き出す。その歩みは、短い命を持つすべての存在への敬意と感謝を込めたものだった。

秋の夜、星月夜の空の下で、彩音は新たな一歩を踏み出した。それは、夏の名残を胸に抱きながらも、新しい季節に向けて力強く生きる決意の表れだった。


秋暑し

夜の

茜草

秋の蝉

花火殻

朝顔

今朝の

茗荷の子

蓮の花

星月夜

有明

沖縄



下り簗

とんぼ

落蝉

星月夜

孑孑 
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