ギリシャ神話

創作

星の涙

「星の涙」

古代ギリシャのある夜、澄み切った星空の下、ひとりの若い羊飼いの娘カリストが丘の上に立っていた。彼女の足元には小さなランプの明かりが揺らめき、彼女は祈るように星空を見上げていた。

「どうか、星々よ、私の祈りを聞いてください。弟の病が治るように、何でもします。どうか、助けてください」

カリストの弟アレクサンダーは重い病にかかり、寝たきりの状態だった。彼女の家は貧しく、薬を買う余裕もなく、日々彼が弱っていくのを見つめるしかなかった。カリストは夜ごとこうして丘に登り、星々に祈るのだった。だが、いくら祈っても答えはなかった。

ある夜、彼女がいつものように祈りを捧げていると、突然、夜空が不思議な光で満ちた。まるで星たちが彼女の祈りに応えるかのように、一際強く輝き始めたのだ。そして、星々の間から一人の美しい女神が現れた。銀の衣をまとい、眩い光を放つその姿にカリストは息を呑んだ。

「カリストよ、あなたの真心ある祈りを聞いた。私は星の女神アストリア。あなたの弟を救うため、あなたに力を授けよう」

カリストは驚きと感謝の思いで胸がいっぱいになった。だが、アストリアの瞳には悲しげな色が宿っていた。

「ただし、この力には代償が必要だ。あなたが愛する弟を救うためには、あなた自身が星となり、この地上を離れなければならない」

カリストは迷ったが、彼女の心には弟の笑顔が浮かんでいた。弟の命と引き換えならば、自分の命も喜んで捧げる覚悟だった。

「私は構いません。どうか、弟を助けてください」

アストリアはカリストの覚悟を受け、彼女にそっと触れた。その瞬間、カリストの体は光り輝き、やがて星のように空へと昇っていった。そして彼女の代わりに、弟のアレクサンダーは健康を取り戻し、再び家族のもとで元気に過ごすことができた。

だが、星となったカリストはただ弟を見守るしかなく、彼が幸せに暮らしている様子を空から眺めることしかできなかった。彼女は少し寂しさを覚えたが、それでも弟が幸せであるならば自分の選択は間違っていなかったと信じていた。

年月が流れ、アレクサンダーは立派な青年へと成長した。そしてある夜、彼はふと空を見上げ、きらめく星々の中に特別に輝く星を見つけた。その星を見つめながら、彼は幼い頃に姉がよく夜空に祈りを捧げていたことを思い出した。彼の心には、姉の祈りが自分の命を救ったのではないかという直感が宿っていた。

「姉さん、あなたが僕のために星になってくれたのか？」

アレクサンダーは夜ごと、その星に語りかけるようになった。彼の声は届くことはなかったが、それでもカリストの心は弟の愛情を感じ、満ち足りた気持ちで輝き続けた。

そしてある夜、アレクサンダーは静かに祈りを捧げた。

「姉さん、どうかいつまでも僕のそばで輝いてください。僕もいつか、あなたのもとに行ける日を待っているから」

その祈りに応じるように、カリストの星はひときわ輝きを増し、夜空に大きく瞬いた。カリストは弟の想いに応え、自らの光を弟に贈るように、いつまでも輝き続けた。

星はいつしか「カリストの星」と呼ばれ、人々はその光を見上げるたびに、彼女の愛と献身の物語を思い出すようになった。そして夜ごと、弟を思いながら輝き続けるその星は、永遠の絆を象徴する存在として伝説となった。