ギリシャ神話

創作

創作ギリシャ神話 銀杏

「創作ギリシャ神話　銀杏」

遥か古代のギリシャ、神々がオリュンポス山に住まい、自然や人々の運命を司る時代のこと。人間界では秋の季節が訪れると、黄金色の葉が地面を覆い、暖かく輝くような風景が広がるようになった。その美しさをもたらす存在、それが「銀杏」と呼ばれる神木であった。しかし、その銀杏の木が持つ不思議な美しさには、知られざる悲しい物語があった。

ある日、豊穣と自然を司る女神デメテルは、地上を歩きながら豊かな実りを人々に与えていた。ふと森の中で、ひっそりと立つ一つの木に目を留めた。その木の葉は黄緑色をしていて、デメテルが見つめると、まるで古い友を思い出すかのように、穏やかで懐かしい気持ちが心に湧き上がった。

「何か特別なものが宿っているようだな…」

デメテルは木にそっと触れ、耳を澄ませた。すると、木の中からかすかな声が聞こえてきた。それは、人間の娘だったミラの魂が宿っていたのだった。ミラは、かつて村で賢く美しい娘として名を知られていた。しかし、彼女の美しさに目をつけたのは、美の女神アフロディーテだった。

アフロディーテはミラに対して嫉妬を抱くようになり、彼女を追い詰めるために、美しさを憎むようになる呪いをかけた。次第にミラは、自分の容姿を呪い、鏡に映る自分を見ては苦しむ日々を送るようになった。彼女の心は次第に病んでいき、最後には誰にも知られぬよう森の奥へと消えていった。

森の奥深くでミラは泣き続け、やがて自らの姿を変え、一本の木へとその身を変えてしまった。彼女は銀杏の木となり、その心が清らかであればあるほど、秋の訪れと共に美しい黄金色の葉をつけ、人々の目を楽しませるようになったのだ。

デメテルはミラの悲しい物語に涙し、そっと銀杏の葉を撫でた。そして、彼女の穏やかな眠りを守るため、秋の季節になるとこの木に人々の祝福を届ける風を吹かせるようにした。デメテルの手によって銀杏の木は神聖な存在となり、人々に秋の訪れと共に「美しさは内に秘めた強さである」ということを思い出させるものとして、代々大切にされるようになった。

やがて銀杏の木は、どんなに厳しい寒さの中でも変わらぬ姿で立ち続け、人々に希望と美しさの象徴としての役割を果たしていく。ミラの魂は、今も秋の風に揺れながら、美しい黄金の葉を静かに人々に送り続けているのだと語り継がれている。