ギリシャ神話

花

シクラメンの誓い

「シクラメンの誓い」

古代ギリシャの神々の間に、愛と情熱の女神アフロディーテがいた。彼女は美しさと愛を司り、全ての者が彼女の力に魅了され、愛の力に導かれていた。しかし、アフロディーテには誰もが知る一つの弱点があった。それは、彼女が与える愛の力に対して、時折その相手が負う苦しみを知らずに深く傷つけることがあるということだった。

アフロディーテはある日、山のふもとの小さな村に住む一人の若者に心を寄せることとなった。その名はエリオス。彼は心優しく、村の人々に慕われる青年であり、誰にも負けないほど真面目で努力家だった。しかし、エリオスにはひとつ大きな悩みがあった。それは、彼の愛する人を決して手に入れられないという苦しみだった。

エリオスは、幼い頃から村に住む美しい少女ヒュリアと心を通わせていた。だが、ヒュリアは不治の病にかかり、命の終わりが近づいていた。エリオスは必死にヒュリアを救おうとし、魔法の薬を探したり、神々に祈ったりしたが、ヒュリアの命は日に日に弱っていった。彼の心は壊れそうになり、涙を流しては何度も祈り続けた。

その時、アフロディーテはエリオスの痛みを感じ取り、彼に現れた。彼女は穏やかに微笑み、彼に声をかけた。

「エリオス、あなたの愛の力は純粋で美しい。しかし、あなたがその愛に執着しすぎることが、ヒュリアを苦しめているのよ。あなたが手に入れたいと思うものが、必ずしも手に入るわけではないのだということを学ばなければならない。」

エリオスは彼女の言葉に驚きながらも、心の中でその意味を考えた。そして、アフロディーテは続けた。

「私はあなたの痛みを癒すために、一つの贈り物を授けましょう。ヒュリアを救うことはできないかもしれないが、あなたの愛を永遠に伝えるものを与えます。それは、シクラメンという花です。この花は、愛する者に捧げられ、深い誓いを意味するものなのです。」

エリオスはその提案を受け入れ、アフロディーテが与えたシクラメンの花を手に取った。それは、まるで彼の心のように繊細で、美しく、かつ力強い花だった。そして、彼は心から誓った。

「ヒュリアがこの世を去った後も、私はあなたを忘れません。あなたへの愛は永遠に続きます。たとえ私の命が尽きるその時まで、あなたへの想いを胸に生きることを誓います。」

その後、ヒュリアはついに命を落とし、村は深い悲しみに包まれた。しかし、エリオスはシクラメンの花を毎年春に咲かせ、彼の愛を示し続けた。花が咲くたびに、彼はヒュリアに向けて祈りを捧げ、彼女を忘れることはなかった。

その後、エリオスは生涯をかけてヒュリアの記憶を胸に秘め、愛を語り継いだ。シクラメンの花は、次第に村人たちにも愛されるようになり、愛と誓いの象徴として人々の間で語り継がれた。その花を見た者は、必ず愛する者との誓いを思い出し、心に深く刻むのであった。

そして、シクラメンの花は時とともに、ギリシャの神話の中でも名高い花となった。アフロディーテがエリオスに授けたその花は、愛と誓いの力を象徴するものとなり、今でも人々の心に残り続けている。

エリオスのように、純粋で深い愛を誓い、守り続ける者たちにとって、シクラメンは今でも大切な存在であり、永遠に色褪せることはないのだ。

シクラメンの花言葉

「内気」「はにかみ」「遠慮」「気後れ」