ギリシャ神話

春秋花壇

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創作

王の重荷

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王の重荷

古代ギリシャ、オリュンポス山の神々は、ゼウスの支配のもとでその絶対的な力を敬い、恐れていた。しかし彼の横暴なふるまいに、何故誰も逆らうことなく従うのかという疑問は、しばしば神々の間で語られた。

ある日、若き神ヘルメスは疑念を抱き、オリュンポスの頂にあるゼウスの玉座を訪れた。ゼウスは豪奢な王座に座り、その眼差しは山と海を一望に収めていたが、彼の表情には厳しさと同時にどこか深い疲れも漂っていた。ヘルメスは遠慮なく、彼に向かって問いかけた。

「父よ、あなたは最高の神でありながら、なぜ時に人々や神々に対して冷酷で横暴に振る舞うのですか? それが許される理由は何ですか?」

ゼウスは微笑みながらヘルメスを見つめ、静かに語り始めた。

「ヘルメス、お前はまだ若い。力の重みや責務の意味を、完全には理解していないのだろう。だが、いい機会だ。私の真意を知るがいい。」

ゼウスは彼に、ある日の出来事を語り始めた。かつて人間界で災厄が続き、人々は恐怖に怯えていた。彼らは互いを疑い、争いが絶えず、秩序が乱れ、世界は混沌としていた。その時ゼウスは、天の雷を轟かせ、人々に自らの存在を強く示した。地は揺れ、人々は恐怖に震え、神々の偉大さを再び感じた。

「私は人間にも、神々にも時に厳しさを示さねばならない。それは恐れを引き起こすためではなく、秩序と安定を保つためなのだ。時には、力をもって抑制しなければ、すべてが破壊されるだろう。」

ヘルメスはゼウスの言葉に耳を傾けながらも、内心納得しきれなかった。彼はさらに食い下がった。

「しかし、父よ、それならば慈悲や愛情だけで秩序を保つことはできないのですか?」

ゼウスはヘルメスの問いに静かに答えた。

「愛や慈悲は大切だ。しかし、同時にそれだけでは弱さとなることもある。人々は、私たちがただ優しさを与えるだけの存在だと考え始めるだろう。やがて神々への敬意が失われ、欲望が支配する世界になってしまう。愛だけでは収まらぬ混乱があるのだよ。」

ゼウスは、自らの役割がすべての神々の中で最も難しいものであることを知っていた。彼の力は制御と抑制の象徴であり、ただの権威の表れではなかった。強大な力を使い、時に恐怖を植え付けることで、神々や人間に自分たちの枠を再認識させていたのだ。

「私は彼らにとって、希望の光でもあり、畏怖の存在でもある。そのバランスこそが、私の役割なのだ。もし私がただ優しい神であるならば、世界は神々の手を離れてしまうだろう。」

ヘルメスは、ゼウスの言葉の深い意味を噛みしめながら、その玉座から放たれる威厳と厳しさが持つ重みを感じていた。そして少しずつ、ゼウスが単なる強者ではなく、世界全体を背負う存在としての苦悩を抱えていることに気づいた。

「父よ、あなたの力とその役割を少し理解したように思います。それでも、横暴に見える行いが持つ意図と責務を考え直さなければなりませんね。」

ゼウスは満足そうに頷き、ヘルメスにこう告げた。

「それでよい。私のやり方がすべて正しいわけではないが、神々の王としての私には選択の余地が少ないのだ。もしお前がいずれ私の立場に立つことがあれば、今日の話を思い出すがいい。」

それからヘルメスはゼウスの前から立ち去り、彼の横暴さがただの独裁ではなく、秩序と安定を守るための苦渋の選択であったことを理解した。

ゼウスの横暴が許されるのは、彼が神々の王として、揺るぎない責任を負いながらも、世界の均衡を保つために、時に力をもって支配せねばならないという宿命を背負っているからだったのだ。









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