ギリシャ神話

春秋花壇

文字の大きさ
上 下
661 / 761
創作

かたりべ

しおりを挟む
かたりべ

昔々、神々が住まうオリンポス山の近く、人間の世界では「かたりべ」と呼ばれる者たちが存在していた。彼らは物語を語ることで人々の心をつなぎ、歴史や教訓を伝える役割を担っていた。中でも、アポロン神が愛した詩人、リュカスは特に優れたかたりべとして知られていた。

リュカスの声は美しく、聴衆を魅了する才能があった。彼の語る物語は、神々の戦いや英雄たちの冒険、愛と悲しみの物語で満ちていて、聞く者の心に深く響くものだった。しかし、リュカスは一つの悲しい秘密を抱えていた。かつて愛する人を失った経験があったのだ。

その女性の名はアリア。彼女は美しい花を愛する優しい心の持ち主で、リュカスにとってかけがえのない存在だった。しかし、アリアは病に倒れ、彼女を救うことができないまま、天に召されてしまった。リュカスはその悲しみを抱えつつ、物語を語り続け、彼女の思い出を心に刻み込んでいた。

ある日、リュカスは村の広場で物語を語ることになった。人々が集まり、彼の声に耳を傾ける中、リュカスは心の奥底に秘めたアリアとの思い出を語り始めた。彼の言葉は、アリアの優しさや美しさを描き出し、村人たちの心を打った。

「アリアは、私の人生の太陽であり、彼女の笑顔が私を照らしていた。彼女のために、私は詩を作り、花を捧げ続けた。しかし、彼女が去った後、私の心は闇に包まれ、詩も花も色を失ったのだ。」リュカスの声は涙に濡れ、村人たちも彼の悲しみを共に感じていた。

その時、突然空が暗くなり、雷鳴が轟いた。村人たちが驚き、周囲を見回す中、神々の一人、ヘーリオスが天から降りてきた。彼は太陽神であり、人間の感情を理解する力を持っていた。ヘーリオスはリュカスの悲しみを感じ取り、彼に向かって言った。

「リュカスよ、君の愛は真実であり、アリアの心も君に寄り添っている。彼女はこの世を去ったが、その愛は永遠に残る。君が語る物語は、彼女を思い出すための大切な手段だ。」

ヘーリオスは、リュカスに一つの提案をした。「アリアのために詩を作り続け、その詩を風に乗せて彼女に届けるのだ。彼女は君の言葉を聞き、君の愛を感じるだろう。」

リュカスはその言葉に感動し、すぐにアリアのための詩を作り始めた。彼の心の中には、愛と悲しみが交錯し、彼女への想いが詩となって紡がれていく。村人たちも彼を見守り、創作活動を応援した。

数日後、リュカスはついに詩を完成させた。その詩は、アリアへの感謝と彼女を失った悲しみを込めたもので、まるで彼女が目の前にいるかのような美しさがあった。彼はその詩を声に出して読み上げ、風に乗せて空に向かって叫んだ。

「アリア、君の思い出は私の心の中で生き続ける。君がいない世界でも、私は君を愛し続ける。私の言葉は、風に乗って君に届きますように!」

すると、奇跡が起こった。風が吹き、リュカスの言葉が空高く舞い上がり、まるでアリアのもとへ向かっているかのように見えた。村人たちもその光景に驚き、感動で涙を流した。

その瞬間、リュカスは心に暖かい光を感じた。彼の愛はアリアに届き、彼女の思いもまた彼に寄り添っていることを実感した。悲しみは消えないが、その思いを抱えながらも、物語を語り続ける決意が固まった。

リュカスは村人たちに語り続けた。「愛は決して消えない。たとえ人がこの世を去っても、思い出は心の中で生き続ける。私たちは愛する者たちを忘れず、彼らのために物語を語り続けるのだ。」

リュカスの物語は、村人たちの心に深く刻まれ、彼の声は人々の間で語り継がれていく。悲しみと愛の物語は、やがて神々にも届き、天の星々が彼の名を称えた。リュカスはかたりべとしての役割を全うし、愛の力を信じ続けるのであった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻と愛人と家族

春秋花壇
現代文学
4 愛は辛抱強く,親切です。愛は嫉妬しません。愛は自慢せず,思い上がらず, 5 下品な振る舞いをせず,自分のことばかり考えず,いら立ちません。愛は傷つけられても根に持ちません。 6 愛は不正を喜ばないで,真実を喜びます。 7 愛は全てのことに耐え,全てのことを信じ,全てのことを希望し,全てのことを忍耐します。 8 愛は決して絶えません。 コリント第一13章4~8節

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

春秋花壇
現代文学
注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

処理中です...