ギリシャ神話

創作

ペネロペの選択

「ペネロペの選択」

かつて、ギリシャのイタカ王国は繁栄していた。王妃ペネロペは、夫オデュッセウスがトロイ戦争に向かうとき、心から彼の無事を祈った。しかし、戦争が終わり、他の戦士たちが次々と帰国する中、オデュッセウスの帰還は長らく待たれた。10年が過ぎ、さらに数年が経っても、彼は戻ってこなかった。

イタカの宮殿には、各地から集まった求婚者たちがペネロペの元に押し寄せた。彼らは皆、ペネロペに結婚を迫り、オデュッセウスの死を確信していた。しかし、ペネロペは彼の無事を信じ、再婚する気など全くなかった。だが、宮廷の秩序を乱し、王国の財産を浪費する求婚者たちを追い払う手立てはない。

ある日、ペネロペはついに決断を下した。彼女は求婚者たちにこう告げた。

「私はオデュッセウスが戻ってこないと確信したならば、再婚を考えるでしょう。しかし、その前に1つだけ条件があります。私は今、夫のために王の墓標を織っています。この織物が完成するまで、決して再婚の話を進めることはできません」

求婚者たちはペネロペの提案を受け入れた。織物が完成するまでの間、彼女は自由であると。だが、ペネロペにはある秘策があった。彼女は昼間、見事な布を織り上げながら、夜になるとその織物をほどいていた。これによって、織物は決して完成することがなかったのだ。

この策略はしばらくの間、うまくいった。求婚者たちはペネロペが誠実に織物を織っていると信じ、再婚を急かすことはなかった。しかし、ペネロペの策は長くは続かないことが予感されていた。やがて求婚者たちは彼女の行動に疑念を抱き始め、密かに監視するようになった。

ある晩、ついに彼女の計画が露見した。求婚者たちは怒り狂い、ペネロペを非難した。

「我々を欺いた罪は重い。すぐに再婚相手を決めろ！」と。

ペネロペは窮地に立たされたが、冷静にこう答えた。

「私があなたたちを欺いたのは認めます。しかし、これは私の夫を信じ続けた結果です。私はオデュッセウスが無事に帰還することを信じています。ですが、もしも本当に彼が戻らないのならば、あなたたちの中から夫を選ばざるを得ないでしょう。しかし、私はあなたたちに挑戦を提案します。オデュッセウスの弓を使って、彼がやったように12本の斧の穴を射抜ける者が現れれば、その者と結婚します」

求婚者たちはペネロペの挑戦を受け入れたが、誰もが内心、この試練が不可能であることを知っていた。オデュッセウスの弓は並外れた力と技術を必要とするものであり、彼以外にそれを操ることのできる者はいなかった。

その日、宮殿には興奮と緊張が渦巻いた。次々と求婚者たちが挑戦を試みたが、誰も弓を引くことすらできなかった。彼らは次第に苛立ち、ペネロペへの失望と怒りを募らせていった。

そこに一人の乞食が現れた。彼は薄汚れた衣服をまとい、疲れ果てた様子で求婚者たちの前に立った。求婚者たちは嘲笑し、彼を追い出そうとしたが、ペネロペはその男に興味を抱いた。

「この男にも挑戦の機会を与えましょう」と彼女は言った。

乞食はゆっくりと歩み出て、オデュッセウスの弓を手に取った。誰もが笑いをこらえて見守る中、その男は弓を引き絞り、12本の斧の穴を一瞬のうちに射抜いた。宮殿は一瞬静まり返り、やがて歓声と驚きの声が広がった。

その乞食こそ、長年の冒険の末に帰還したオデュッセウス本人だったのだ。彼は求婚者たちを打ち倒し、王国を再び取り戻した。そして、ペネロペの信念と知恵に感謝し、二人は再び一緒に暮らし始めた。

ペネロペは、リテラシー（文字の読み書きや知識）だけでなく、愛と知恵によって自らと家族を守り抜いたのだった。

彼女の物語は、ギリシャ神話の中でも特に人々の心に残るものとして、語り継がれていくことになる。