河童のような母

母と僕の距離

「母と僕の距離」

俺は47歳、独身で、週に一度か二度、一人暮らしの母の様子を見に行くようになった。母は最近、ますます裸でいる時間が増えてきて、その姿が家の中をふらふらと動き回る光景には、何度見ても慣れない。自由奔放で、まるで世間の常識に縛られないその姿は、若い頃から母の個性そのものだった。

思えば、母と過ごした日々の中で、俺が支えられてきた場面は数え切れない。俺が精神的に参って両手首を切ったことがあったあの時、母は黙って俺の世話を引き受けてくれた。汚れたシーツや衣服を洗い、トイレも満足にできなかった俺の後始末までこなしてくれた。母の笑顔に甘えて、当たり前のように思っていた自分が、今振り返ると情けなくなる。

母もいつの間にか歳を重ね、肩が痛むと言いながらパンツの着脱に苦労している姿を見るたびに、心が締め付けられる。だが、いざその手伝いをしようと思っても、気持ちが引っかかってしまうのだ。母は俺を支えてくれたが、俺には母を支える覚悟がまだできていない。

「俺もいつか、母の紙おむつの交換をする日が来るのかな」

そう自分に問いかけてみても、答えは出ない。母が元気なうちはその覚悟を持たずに済むが、いつかその日は必ず訪れる。母がすべてを受け入れてくれたように、俺も母のすべてを受け入れる準備をしなくてはならない。その勇気が自分にあるのか、正直分からない。

ふと、10年後のことを考える。俺も母も生きているのだろうか。母は変わらず、河童のように裸で台所やリビングを歩き回っているのだろうか。そう考えると、少し笑みがこぼれる。母の無邪気な笑顔と、その笑顔の裏にある寂しそうな表情が思い浮かぶ。どこかのんびりしていて、けれど、どこかで俺を気遣っているような、そんな表情だ。

結局、母は河童のままなのだろう。そして、俺は今のままでいられるのだろうか。

たぶん、俺はいつか母の面倒をみる時が来る。その時、俺は母の世話をすることができるだろうか。今はまだ、その勇気は出ないけれど、いつかきっと、母のすべてを受け入れられる自分になれる日が来ると信じている。母が幸せそうに、自由に暮らす姿を見守りながら、自分も少しずつ変わっていければと思う。