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春秋花壇

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あばたもえくぼ

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あばたもえくぼ

「何で、そんなに優しいの?」

瑠璃(るり)は、驚きと戸惑いを顔に浮かべながら、目の前の彼、昇(のぼる)に問いかけた。二人は、大学のキャンパスの片隅にある小さなカフェで向かい合って座っていた。瑠璃は手にしたカップを見つめながら、心の中で疑問を抱えていた。

昇は、いつもと変わらぬ笑顔を浮かべて、軽く肩をすくめた。

「別に、普通のことをしているだけだよ。」

その言葉が、瑠璃にはどうしても信じられなかった。昇の優しさは、あまりにも過剰で、何度も彼女を驚かせてきた。初めて二人で食事をしたとき、彼は瑠璃がちょっとしたことで落ち込んでいるのを察して、何度も話題を変えたり、冗談を言ったりして笑顔を引き出そうとした。その時は、ただの気遣いだと思っていたが、最近ではそれが彼の日常の一部であることに気づいてきた。

瑠璃は、その優しさに少しずつ心を動かされていた。でも、なぜ昇はここまで彼女に優しくしてくれるのか、その理由がわからなかった。

昇は、無愛想に見えるけれど、実はとても面倒見の良い人だった。学内でも他の学生から頼られる存在で、何度も助けられたことがあった。彼の外見はクールで、どこか近寄りがたい雰囲気を持っていたが、その裏には暖かい心が隠れていることを、瑠璃は少しずつ理解していた。

だが、それでも心の中では「本当に、こんな優しさが偽りではないのか?」という疑念が消えなかった。

「どうしたの?」昇が気にした様子で聞くと、瑠璃はふっとため息をついた。

「ううん、別に…。」瑠璃は一度言葉を飲み込み、軽く笑顔を作った。「でも、あなたは私に過剰に優しすぎる気がして…」

昇はその言葉を聞いて、少し驚いた様子を見せた。そして、微笑んだ。

「そう見えるか。でも、僕はただ瑠璃さんが困っているときに、少しでも手を貸したいと思うだけだよ。」

そのシンプルな言葉に、瑠璃は心が温かくなるのを感じた。昇の言葉には、無駄なものが一切なくて、ただ真っ直ぐに彼女に向かって届けられるようだった。

「でも、なんでそんなに私に優しいの?」

瑠璃は再度、問いを投げかけた。この質問が、今の自分の中でどうしても解けないパズルのように感じていた。彼の優しさが、どうしてこんなに大きいのか、それがわからなかった。

昇は、少し考えるようにしてから、ふっと微笑んだ。

「だって、瑠璃さんって…」昇は言葉を選ぶように続けた。「なんか、ふとした時にすごく魅力的なんだよ。」

その言葉を聞いて、瑠璃は心の中で驚きが駆け巡った。「私が?」と、思わず自分の耳を疑った。

「うん。瑠璃さんって、すごく強いし、しっかりしているけれど、どこか…不器用なんだよね。だから、助けてあげたくなるんだ。」

瑠璃はその言葉を聞いて、思わず胸が締め付けられるような気持ちになった。彼が言っていることは、どこか彼女が自分でも気づいていなかった一面をつかまれているようで、心にぐっと響いた。

「強いなんて、全然…。」

「でも、瑠璃さんって、周りの人をしっかり支えているし、自分で何でも抱え込んじゃうタイプだから、どうしても気になるんだ。」

昇の言葉に、瑠璃は少し黙ってしまった。彼の言う通り、彼女は常に周りに気を使い、自分の気持ちを後回しにしてきた。それを昇は、彼女の欠点としてではなく、彼女の強さとして捉えてくれたのだ。

その瞬間、瑠璃は自分の中で何かが変わった気がした。昇の優しさが、ただの気遣いではなく、彼女を本当に大切に思ってくれているからこそ、そうしてくれていることが、初めて理解できた。

「昇、私は…」瑠璃は少し言いにくそうに口を開いた。「私は、あなたが本当に優しいって思ってる。でも、時々その優しさが怖くなることもあるんだ。」

昇は少し驚いた表情を見せ、真剣に彼女の目を見つめた。

「怖いって、どうして?」

「だって、私みたいな普通の人に、こんなに優しくしてくれる理由が分からなくて…」瑠璃は目を伏せた。「それに、私はあなたに迷惑をかけたくないし、どうしても…自分の欠点が気になってしまう。」

昇は静かに彼女の手を取った。その手のひらには、温かさと安心感が広がっていた。

「瑠璃さん、僕が君に優しくする理由は一つだけだよ。それは、君がただ君自身だからだ。」

その言葉に、瑠璃は深く息を吐き出した。昇の目には、ただ純粋な思いが映っているだけだった。彼は瑠璃が持つ欠点や不安を、全て受け入れてくれるような、そんな空気を漂わせていた。

「私は完璧じゃないし、時々すごく不安になるけれど、あなたがこうして優しくしてくれることで、少しだけ安心できる。」

「瑠璃さん、君は完璧じゃなくてもいいんだよ。僕は、君のそのままを見ているだけだから。」

昇の言葉が、瑠璃の心に深く響いた。彼は、瑠璃がどんな時でも本当の自分を見せてくれることを、待っていたのだ。瑠璃の中にあった不安が、少しずつ溶けていくのを感じた。

「ありがとう、昇。」瑠璃は心からそう言った。そして、彼の手を握り返した。

昇は微笑んで、少し恥ずかしそうに目をそらした。「ああ、いいんだよ。」

その時、瑠璃は気づいた。どんな欠点があろうと、どんな不安があろうと、昇の優しさは全てを包み込んでくれるのだと。そして、昇にとって、瑠璃の「欠点」すらも、あばたもえくぼのように、愛おしく映るのだということを。

瑠璃は、今初めてその温かさを心の中で確信した。







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