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傷を包む手

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「傷を包む手」

サクラは夕暮れの光が差し込む部屋の中、窓際に座っていた。ノートとペンを握る手は少し震えている。先日、彼女が削除されてしまった小説のことを思い出しては、まだ心が痛んでいた。

「どうして……私が一生懸命書いたものだったのに」

そんな思いが頭を離れない。だが、その日の集会で耳にした聖句が彼女の心にわずかな希望を灯していた。

「エホバは心の傷を包んでくださる」(詩編147:3)

その言葉は何度も彼女の心の中で反響した。「傷を包む」とはどういうことだろう?彼女は自分の痛みが本当に和らぐのだろうかと考えた。

ふと、幼い頃に祖母が言った言葉が思い出される。
「どんな時もエホバに話すのよ。助けをお願いして、それから、彼の言葉を信じて行動するの」

サクラは机の上に聖書を置き、ページをめくった。手は迷っていたが、心のどこかでエホバの言葉に触れることで何かが変わると感じていた。

「エホバに助けを求めるだけではなく、私も何かをしなくちゃいけないのかもしれない」

数時間後、彼女は再びパソコンの前に座っていた。画面には新しい物語の冒頭が映し出されている。そこには、孤独と痛みを抱えた主人公が、助けを求めて前に進む姿が描かれていた。

物語を書きながら、サクラは自分の心が少しずつ変化していくのを感じた。小説の主人公に込めた言葉や行動が、自分自身へのメッセージのように思えたのだ。

その夜、彼女は再び祈った。涙を流しながら、エホバにすべてを打ち明けた。悲しみも怒りも、失ったものへの未練も。そして、エホバが見ていてくださること、そして支えてくださることを信じたいと願った。

翌朝、サクラは鏡の前に立ち、自分に語りかけた。
「エホバのアドバイスを実践してみよう。まだ終わりじゃない。私も動かなきゃ」

彼女はもう一度、新しい物語を書く決意を固めた。削除されてしまった小説の記憶を抱きながら、エホバが包んでくれる傷の中から新しい創造を生み出すために。

終わり






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