上 下
41 / 55

削除されても、消えないもの

しおりを挟む
「削除されても、消えないもの」

サクラはもう一度、あの日の記録を読み返した。
「24hポイント 282,449pt、小説 1位、現代文学 1位……」
一文字一文字が心に突き刺さる。削除された今となっては、数字でしか残っていないけれど、確かにその瞬間は輝いていた。それは、あの日々の努力の証であり、言葉たちが輝いた一瞬だった。

夜遅くまで机に向かい、インスピレーションが湧かない日は本を読み漁り、自分の中の感情を振り絞って書いた小説。境界性パーソナリティー障害について、少しでも正確に描きたくて、何度も資料を調べた。どのキャラクターも、自分の一部のように愛していた。

でもその結果が、「削除」。

「どうしてなんだろう?」サクラは何度も自問した。
カテゴリーエラー、規約違反、そんな言葉が画面に並んでいたけれど、それでも納得するのは難しい。恋愛要素が少ない作品だと分かっていても、分類されたカテゴリーを拒絶されることが、何よりもつらかった。

母がふと部屋を覗き込んだ。
「またその記録を見てるの?」
サクラは頷いた。母はそっと隣に座り、彼女の手を握った。
「その数字はあなたが頑張った証拠よ。削除されたからって、それがなかったことにはならないわ」
「でも、もう一度書ける気がしない。頑張っても、また消されたらって思うと……」
母は小さく笑った。
「ねえ、サクラ。数字じゃなくて、どれだけの人がその小説を読んで『よかった』と思ったか、それを考えてみて」

そう言われて、サクラは初めて気付いた。
お気に入り登録してくれた人たちのコメント、毎日更新を楽しみにしていたという言葉、病気の描写がリアルで共感したというメッセージ。

サクラは画面を閉じた。記録はもういい。消えてしまった物語は、たしかにもう戻らないかもしれない。でも、その物語が誰かの心に何かを残したこと、それは消えない。

「もう一度、書こうかな」サクラはそっと呟いた。
母は微笑み、彼女を抱きしめた。
「大丈夫。あなたなら、きっとまた素敵な物語を書けるわ」

削除された小説は消えたけれど、それを紡いだ時間と努力は、彼女の心にしっかりと刻まれている。そしてそれは、これからも彼女を支える「勲章」だ。

終わり
また新しい物語を紡ぐ力を信じて──。


24h.ポイント 282,449pt 5,604 小説 1 位 / 193,035件 現代文学 1 位 / 8,533件

お気に入り 334
初回公開日時 2024.11.19 20:03
更新日時 2024.12.11 17:42
初回完結日時 2024.11.19 20:21
文字数(公開) 50,631
文字数(非公開) 27
24h.ポイント 282,449 pt (1位)
週間ポイント 157,975 pt (68位)
月間ポイント 1,263,575 pt (29位)
年間ポイント 1,263,575 pt (494位)
累計ポイント 1,450,157 pt (3,517位)




しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...