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サクラ8歳の師走

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「サクラ8歳の師走」

12月、寒さがいっそう厳しくなった師走の朝。サクラは学校に行く準備をしていた。白い息を吐きながらランドセルを背負い、玄関を出ると、目の前には真っ青な冬の空が広がっている。

サクラは8歳。小学2年生だ。世間では「α世代」と呼ばれる、自分よりずっと上の大人たちが生きてきた時代とはまったく違う世界に生きている。スマートフォンやタブレットは生まれたときから身近にあり、学校の授業でもタブレットを使うことが当たり前だ。

今日もサクラは友達のミユキと一緒に登校する。ミユキの家はサクラの家から5分の距離にある。「おはよう!」と明るく挨拶を交わしながら、2人は並んで歩き始めた。

「サクラ、クリスマスのプレゼント、何お願いしたの?」
「んー、私はね、絵を描くペンセット! タブレットに使えるやつ!」
「いいなー、私もほしい!でも、ゲームの新しいやつにしたんだ。」

学校に着くと、クラスはいつも以上に賑やかだった。教室の隅にはクリスマスツリーが飾られ、黒板の上には「今年もありがとう!」という文字が書かれている。12月の学校生活は、普段の授業に加えてイベントも多く、サクラたちにとっては楽しい時期だ。

でも、サクラの心の中には、少しだけ引っかかるものがあった。

その日の放課後、サクラはランドセルを置いて、リビングに駆け込むと真っ先にタブレットを開いた。サクラは子ども向けの絵描きアプリで自分のオリジナルキャラクターを描くのが大好きだった。最近は学校の友達やSNSで知り合った子たちと、自分の作品を見せ合うことが日課になっている。

タブレットを開くと、サクラのアカウントにはいくつかのコメントが届いていた。嬉しそうにそれを眺めていると、一つだけ気になるメッセージがあった。

「このキャラ、他のと似てるよね。」

それを見た瞬間、サクラの心はぎゅっと締め付けられた。

「似てるってどういうことだろう……」

サクラはすぐに返信をしようとしたけれど、どう言えばいいかわからなかった。ただただモヤモヤした気持ちが心に残った。

夜ご飯のあと、サクラはお母さんに相談することにした。キッチンで片付けをしているお母さんに、サクラは絵を見せながら言った。

「お母さん、この絵、誰かの真似してるって言われたの……」
「え?サクラが描いたキャラクター、真似なんかじゃないでしょ。サクラが一生懸命考えたんだから、自信を持っていいんだよ。」

お母さんの言葉を聞いて、サクラは少しだけ気持ちが軽くなった。でも、どこか引っかかるものがまだ残っている。

次の日の放課後、サクラはアパートの2階に住むユキさんのところに遊びに行った。ユキさんはイラストレーターをしている20代のお姉さんで、サクラが絵を描くのが好きだと知ってから何度かアドバイスをしてくれていた。

「ユキさん、絵が他のに似てるって言われたの……」

ユキさんはサクラの話を聞いて、優しく笑った。

「サクラちゃん、誰かに似てるって言われるのは、逆にすごいことだよ。サクラちゃんの絵がちゃんと見られてるってことだから。だけど、自分の個性をもっと出したいなら、自分が本当に好きなものを考えてみるといいよ。」

「好きなもの……?」

「うん。サクラちゃんが見た景色とか、聞いた音楽とか。そういうのをたくさん感じると、自分だけの世界が広がるんだよ。」

その夜、サクラは布団に入ると、今日ユキさんに言われたことを思い返していた。好きなものって何だろう?自分の絵をもっと「サクラらしく」するにはどうすればいいんだろう?

タブレットを開き、これまで描いた絵をじっくり見直した。そしてサクラは、新しい絵を描き始めた。それは、今日学校の帰り道で見た冬の夕焼けや、友達と笑いあった瞬間を思い出しながら、思いのままに描いたものだった。

クリスマスが近づくにつれ、サクラの新しい絵は完成した。それは、寒い冬の中で咲く一本の花を持つキャラクターだった。その花は、まるでサクラ自身が持つ希望のように、強く輝いている。

完成した絵をSNSに投稿すると、たくさんの「いいね」がついた。そして、いつもコメントをくれる友達がこんなメッセージを送ってくれた。

「この絵、すごくサクラちゃんらしいね!」

その言葉を見た瞬間、サクラは心の中がぽっと温かくなるのを感じた。

「自分らしく描くって、こういうことなんだ……」

8歳のサクラにとって、この師走は特別なものになった。クリスマスの朝、サクラの枕元にはお母さんが用意してくれたタブレット用のペンセットが置いてあった。サクラはそれを手に取りながら、小さく笑った。

「来年も、もっとたくさん絵を描こう。」

外では、冬の空気が澄み渡り、師走の街に新しい一日が訪れようとしていた。






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