ほっこりできるで賞

春秋花壇

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夏の庭とほっこりした家族の時間

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夏の庭とほっこりした家族の時間

7月のある晴れた朝、陽子は庭で育てている野菜たちを見に行った。青々と茂る葉っぱの間から、色とりどりの野菜たちが顔を覗かせていた。特に目を引いたのは、真っ赤に熟したトマト、鮮やかな緑のキュウリ、そして小さな青い枝豆だった。7月はこれらの野菜が最も美味しくなる季節だ。陽子はその瑞々しい姿に微笑み、収穫するためにバスケットを手に取った。

庭にしゃがみ込み、丁寧にトマトを一つずつ摘み取っていく。指先に感じるその柔らかさと、甘い香りが漂ってくる。キュウリは手で触れると冷たくて、シャキッとした感触が心地よい。枝豆はまだ小さなさやに包まれているが、その中にはぎっしりと詰まった豆が隠れている。

「これで今日は何を作ろうかしら」と陽子は考えた。トマトとキュウリでサラダを作るのはもちろん、枝豆は塩ゆでにしてみんなで食べるのがいいかもしれない。そう思いながら、陽子はバスケットいっぱいに野菜を詰め込んで家に戻った。

家の中では、夫の健二がリビングで新聞を読んでいた。「おかえり、いい収穫だったみたいだね」と彼は笑顔で陽子に声をかけた。「ええ、とても新鮮な野菜がたくさん取れたわ。今日はこれでご飯を作るわね」と陽子は答えた。

陽子はキッチンに立ち、早速野菜の準備を始めた。トマトはざく切りにして、オリーブオイルとバルサミコ酢で和える。キュウリは薄切りにして、塩と胡椒でシンプルに味付けをする。枝豆は塩水でさっと茹で、鮮やかな緑色が美しく仕上がった。

昼食の準備が整った頃、子供たちが外から戻ってきた。「ママ、いい匂いがする!」と長男の大輔が興奮気味に言った。「早く食べたいな」と次男の陽介も元気に続けた。

家族全員が食卓に集まり、陽子が作った新鮮な野菜料理を前に喜びの声があがった。「このトマト、すごく甘い!」と大輔が一口食べて言った。「キュウリもシャキシャキしてて美味しい!」と陽介も続けた。健二は枝豆を口に運びながら、「やっぱり自分で育てた野菜は格別だな」と感心していた。

陽子はそんな家族の反応にほっとしながら、「みんなが喜んでくれて嬉しいわ」と微笑んだ。庭で育てた野菜が、こうして家族の食卓に並び、その幸せな時間を共有できることが何よりの喜びだった。

昼食の後、家族は庭に出て一緒に遊ぶことにした。子供たちは元気に走り回り、健二はその様子を見ながら笑っていた。陽子は少し離れた場所で、次の収穫に備えて新しい種をまいていた。彼女はふと立ち止まり、青い空を見上げた。7月の暖かい日差しが降り注ぎ、庭全体がキラキラと輝いていた。

「この夏も、みんなでたくさんの思い出を作ろうね」と陽子は心の中でつぶやいた。そして、その思いを胸に、彼女は再び庭仕事に戻った。

夕方になると、庭の緑が夕日に照らされ、さらに美しく映えていた。家族全員が再び食卓に集まり、陽子が作った夕食を楽しんだ。今日は特別に、デザートとして自家製のフルーツゼリーも用意されていた。これもまた、夏の恵みをたっぷりと受けたフルーツを使った一品だった。

食事が終わると、子供たちは満足そうな顔で「今日も美味しかった!」と感謝の言葉を口にした。健二も「本当にありがとう、陽子」と感謝の気持ちを伝えた。

陽子はそんな家族の言葉に、「こちらこそ、みんなが笑顔でいてくれることが一番の幸せよ」と答えた。

こうして、7月の一日は家族の愛と自然の恵みを感じる幸せな時間として終わった。庭で育った新鮮な野菜たちは、家族の絆を深める大切な役割を果たしていた。そして、これからも続くであろう楽しい日々を予感させる、ほっこりとした一日だった。








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