わが待ちし 秋は来りぬ 三日月の 光しづけく かがやきにけり

秋雨の再会

秋雨の再会

佳奈は、電話越しに聞こえる浩司の声に、心が大きく揺さぶられた。二年間の長い沈黙の後、彼の声を聞くことになるとは思ってもいなかった。正直、ずっと待っていたわけではなかった。少なくとも、そう自分に言い聞かせてきた。しかし、心の奥底では彼のことがまだ消えず、いつかこの日が来るかもしれないと、どこかで期待していたのだ。

「あの時、どうして？」その問いが頭をよぎったが、すぐに飲み込んだ。なぜ今さら連絡してきたのか、なぜ何も言わずに去ったのか、聞きたいことは山ほどあったが、彼の話を聞きながら、佳奈は少しずつ理解し始めていた。彼が背負っていたものの重さ、自分には知らなかった彼の内面の苦しみが、今ようやく見えた気がした。

彼がいなくなった当初、佳奈は傷つき、怒りさえ感じていた。突然の別れに何の説明もなく、ただ消え去ってしまった浩司に対して、裏切られたという思いが強かった。しかし、時が経つにつれ、その怒りは薄れ、代わりに悲しみと空虚さだけが残った。彼との日々は、何もかもが急に遠い昔のように感じられ、彼女はその失われた時間をただ受け入れるしかなかった。

だが、電話口の彼の言葉は、あの頃の感情を鮮やかに蘇らせた。「君を傷つけたことだけは間違いない」と彼が言った時、佳奈はその瞬間、自分自身が彼の苦しみの一部であったことを初めて感じた。彼女は、彼を責めるだけではなく、彼の気持ちにもっと敏感であるべきだったのではないかと考え始めた。

「あの時、私は何も分かっていなかったんだな」と、佳奈は思い直す。浩司の家庭の事情や、彼が抱えていたプレッシャーについては、彼女もわずかにしか知らなかった。二人の間には、いつも何かが隠されていたような感覚があり、そのことが彼を追い詰めていたのかもしれない。佳奈は、もっと彼に寄り添うべきだったのではないかと自問する。

「私も、あなたのことを待っていたのかもしれない」

この言葉が自分の口から出た瞬間、佳奈自身も驚いた。待っていた――その一言には、無意識に溜め込んでいた彼への思いがすべて詰まっていた。彼がいなくなった後も、心の片隅に残り続けていた感情が、今この瞬間に表に出てきたのだ。

再会を約束した日の朝、佳奈はいつも以上に早く目が覚めた。窓の外を見ると、秋霖が静かに降り続いていた。街路のアメリカンハナミズキの葉は赤く色づき、秋の訪れを告げていた。彼との再会を待ち望む気持ちと、再び彼に会うことへの不安が入り混じり、心が落ち着かない。

駅前のカフェで待っていると、扉の向こうから見覚えのある姿が現れた。浩司だ。少しやつれたようにも見えたが、どこか以前よりも落ち着いた雰囲気が漂っていた。彼は佳奈の目を見て、少し笑みを浮かべた。

「久しぶりだな」

「ほんと、久しぶりね」

二人はしばらく無言で見つめ合い、過ぎ去った時間の重さを感じた。佳奈は、今こそ彼の気持ちを知る時だと思った。そして、自分もその時間をどう過ごしてきたのか、伝えるべき時が来たのだと。

「浩司、あの時あなたがいなくなった理由、今なら分かる気がする。でも、やっぱり突然すぎて、ずっと何かが残っていたの。私も自分の気持ちを整理できなくて、あの二年間、何をしても心がどこか不安定だった。でも今、こうしてあなたと向き合って話せること、それだけで少し楽になってる」

浩司は佳奈の言葉を静かに聞いていた。そして、深く息をつきながら、口を開いた。

「俺も同じだよ。何も言わずに去ったこと、ずっと後悔していた。君を傷つけるのが怖かったんだ。でも、それ以上に、自分の弱さを認めることが怖かった。逃げるしかなかったんだ」

その言葉を聞いた時、佳奈は涙がこぼれそうになった。浩司もまた、同じ苦しみを抱えていたのだと、今初めて理解した。二人は言葉にならない思いを共有し、再び向き合った。

これからの未来がどうなるかはわからない。だが、二人は確かに、再び織り直された糸のように結びつき始めていた。過去の傷は完全には癒えないかもしれないが、これから一緒に歩んでいく中で、その傷もいつかは和らいでいくはずだ。秋の雨が静かに降り続ける中、二人は新たな一歩を踏み出した。