妻と愛人と家族

春秋花壇

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その先に待つもの

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「その先に待つもの」

真一は、あれから4年もの間、ひたすらに小説を書き続けていた。アルファポリスに投稿することで見つけた居場所を、彼は手放すことなく守ってきた。最初の頃の高揚感は薄れ、次第に現実が厳しさを増していった。評価されることもあれば、全く反応がないこともあり、時には24時間を過ぎると、投稿した作品がまるで消えてしまったかのようにランキングの一番下に沈んでいくこともあった。

その度に、真一は顔を顰め、肩を落としていた。喜びや希望に包まれていた時期もあったが、今はその裏にある孤独や不安、そして無力感が次第に彼を蝕んでいった。

「もう、どうしてこんなにうまくいかないんだろう…」真一はそんな言葉を呟きながら、パソコンの画面をぼんやりと見つめる。何度も何度も書き直し、投稿を繰り返しても、反応がないことに心が折れそうになる。それでも、彼は毎日書き続ける。書かずにはいられなかった。物語が彼の心の中で渦巻き、書かないことでむしろ不安定になってしまうのだ。

そんな真一の姿を、和子は黙って見守っていた。心の中では、どうしてあげたらよいのか分からないもどかしさと、息子が苦しむ姿に対する切なさがあった。しかし、和子は決してその気持ちを真一に押し付けることはなかった。彼の気持ちに寄り添うことが、何よりも大事だと感じていた。

ある日のこと。真一がまた、パソコンを前にして、息をついた。「母さん、まただ。あんなに頑張って書いたのに、全然評価されない…」彼は、まるで涙をこらえているかのような顔をしていた。少し震えるような声で言うと、和子は黙って真一の隣に座った。

「真一…」和子は、深く息を吐いてから話し始めた。「お母さんが、昔、母さんに言われた言葉があるの。ちょっと、思い出してみて。」和子は少し笑みを浮かべ、話し続けた。「お母さんがね、『100物事があると、98か99は地味でつらいことばかり。でも、残りの一つか二つを楽しみに生きてるんだ』って、よく言ってたの。」

真一は少し戸惑ったように和子を見つめた。「それって、どういう意味?」

和子は思い出すように、少し遠くを見つめながら続けた。「つまり、何事も、ほとんどが苦しいことやつらいことばかりで、満足のいくことが少ない。でも、そこで諦めてしまったら、それこそ何も得られないんだって。だから、残りのほんの少しの幸せや楽しみを信じて、頑張るんだってことよ。」

真一はしばらく沈黙した。彼の顔には、何とも言えない表情が浮かんでいた。その言葉を受け入れることができるかどうか、真一にはまだ分からなかった。しかし、和子の優しい目線に包まれたその瞬間、彼の中で何かが少しずつ変わり始めた。

「でも、1か2ならいらない。」真一は口を尖らせて、駄々っ子のように吐き捨てるように言った。その言葉には、どこか可愛らしさもあり、少し怒りも含まれていた。

和子はその言葉に、思わず大笑いしてしまった。「あら、真一も私に似てきたわね。」和子は心から笑った。その笑顔は、どこか懐かしく、そしてとても暖かかった。

「えっ?」真一は驚いたように顔を上げた。「お母さんも、そんなこと言ったの?」

和子は少し照れくさそうに頷いた。「ええ、あなたと同じことを言ったわ。お母さんも、何度もあきらめかけたけど、お母さんの母がこう言ってくれたからね。『お前も、もうちょっとだけ頑張りなさい』って。」

真一はしばらく黙って考え込んだ後、ふっと肩の力を抜いて笑った。「お母さん…お母さんも、けっこう頑固だったんだね。」

和子は、ちょっと誇らしげに笑った。「そうよ、あなたが言ったこと、全部お母さんも通ってきたことだから。でもね、それでもやっぱり、残りの一つか二つがあるからこそ、続けられるのよ。」

真一はしばらく和子の言葉を噛み締めるようにして黙っていた。彼はまだ、満足のいく評価が得られないことに対してフラストレーションを感じていたが、和子の話を聞いて少しだけ心が軽くなった気がした。何度も失敗して、何度も立ち上がらなければならない。その中で、たった一つか二つの成功が待っているのかもしれない。そして、その成功が、彼にとってどれほど大切なものになるのか、今は分からないけれど、信じて続けることが大切なのだと感じ始めていた。

「ありがとう、お母さん。」真一は静かに言った。「少しだけ、楽になったよ。」

和子は、優しく息子を見守りながら、心の中で再び誓った。どんなに辛くても、真一が自分を信じて歩み続ける限り、支え続けることを。










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