妻と愛人と家族

セックスレス夫婦

セックスレス夫婦

大輔と真由美は、結婚して10年が経とうとしていた。昔はお互いに引かれる部分が多く、週に何度もデートを重ね、熱い言葉を交わし、体を寄せ合った日々があった。しかし、今やその日々は遠い昔の思い出となり、二人の関係は静かな平穏の中に埋もれていた。

「最近、なんだかあなたと話すのも少なくなったね。」ある日の夜、真由美がぽつりと言った。彼女はテーブルで書類を広げている大輔の姿を見つめながら、言葉を続けた。「なんか、私たちの間に、すごく大きな壁ができてる気がする。」

大輔は書類に目を落としながら、軽く息をついた。「そうかもしれないな。仕事も忙しくて、疲れて帰ってきたら、どうしても休息が最優先になっちゃうんだ。」

真由美は黙って彼の顔を見つめた。彼の答えには、優しさや無理にでも時間を作ろうという意志が感じられなかった。むしろ、心の中で自分の感情を遠ざけようとしているように見えた。

それから、何度も二人の間で似たような会話が交わされた。話題はいつも同じで、セックスレスという言葉が繰り返されるばかりだった。以前なら、二人の関係において、体の触れ合いは自然なものだった。しかし、最近ではそれが遠ざかり、最初は些細なことのように思えたが、次第にその積み重ねが二人の心に大きな穴を空け始めていた。

ある日、真由美は決心して大輔に向かって言った。「最近、私、なんだかすごく寂しい。あなたが横にいることはわかるけど、あなたと一緒にいる実感がない。」

大輔はそれを聞いて、少し驚いた表情を見せたが、すぐに目をそらした。「ごめん。でも、仕事も忙しいし、ちょっとしたことでお互いのペースを乱したくないんだ。」

その言葉が、真由美には痛かった。彼の中で「ペースを乱す」というのは、まるで二人の関係が一つのモノとして固定化されているように感じた。どんなに頑張っても、何かが足りない。二人は、まるで他人のようになっていた。

それから数日、真由美は自分の中で悩み続けた。どうしてこんなにも心が遠くなったのか、どうして大輔は私に手を差し伸べてくれないのか。考えれば考えるほど、答えは見つからなかった。ただ、日々の忙しさに流され、誰もが自分の世界に閉じ込められているだけのように感じられた。

ある晩、真由美はいつもよりも少し遅く帰宅した。玄関を開けると、すでに大輔が寝ている姿が見えた。静かな寝室で、彼はそのまま寝息を立てていた。真由美はその姿を見て、何度も胸が苦しくなった。どうしてこんなに遠くなってしまったのだろう。昔はこんなふうに、一緒に過ごすことが楽しみだったのに。

その夜、真由美は自分の感情に向き合うことを決意した。寝室の隅に置かれた大輔のスーツを見つめながら、思い切って自分の心の中でつぶやいた。「私は、これでいいのかな？」

翌日、真由美は再び大輔に向き合った。「ねえ、私たち、どうしてこんなふうになったの？」

大輔は驚いた表情で答えた。「どうしたんだ？急にそんなことを言われても…。お前もわかるだろう、仕事が忙しくて。」

真由美は静かに言った。「でも、それが理由なの？私たち、こんなにお互いを避けるように過ごしているなんて、もう耐えられない。」

大輔は言葉に詰まった後、少し黙った。「正直、セックスってどうしても気が乗らない時があってさ…。でも、君がそう言うなら、少し考えてみるよ。」

その言葉を聞いて、真由美は少しほっとした。しかし、彼女の心の中には、もう一つの不安があった。彼は本当に、自分のために変わろうとしているのだろうか。セックスレスの問題は、単なる体の問題ではなく、心のつながりが薄れていくことを意味していた。

それから、二人は少しずつコミュニケーションを増やし、共に過ごす時間を意識的に作るようになった。大輔は仕事の合間を縫って、真由美との時間を大切にするようになり、真由美も、自分の不安を大輔に話すことができるようになった。

だが、セックスレスは簡単に解決できる問題ではなかった。二人が本当に心の中でつながりを取り戻すためには、時間が必要だった。大輔と真由美は、少しずつではあるが、心の壁を少しずつ取り除き、再び二人の関係を築き始めた。

セックスレスの問題は、単なる肉体的な距離だけでなく、心の距離も深く関わっている。そのことに気づくまでに、二人は多くの時間を費やした。しかし、それを乗り越えた先に、二人の新しい未来が待っていることを信じていた。