妻と愛人と家族

犬と猫と二人の暮らし

「犬と猫と二人の暮らし」

夫の亮介は犬好きで、特に大きな犬に目がない。子どもの頃からずっと犬と一緒に過ごしてきた彼にとって、犬はただのペットではなく、家族のような存在だった。そんな亮介の部屋には、昔飼っていた愛犬との写真がいくつか飾られており、彼はいつかまた犬を飼いたいとずっと思っていた。

一方で、妻の沙織は猫好きだった。彼女の家ではずっと猫を飼っていて、独特のツンデレな性格や、のんびりとした猫の気ままな様子に癒されてきた。猫のしなやかで優雅な仕草が彼女にはたまらなく愛おしかったのだ。

結婚して二人で一緒に暮らし始めた頃、亮介が「そろそろ犬を飼いたいな」と口にした時、沙織も「私は猫がいいな」とすかさず言った。お互いに譲るつもりがないと分かった二人は、どちらの動物を飼うかについて話し合いを続けたが、結論が出ず、そのまま時間が過ぎていった。

そんなある日、亮介が偶然訪れたペットショップで、一匹の子犬と目が合った。彼はその子犬に心を奪われ、その姿をスマホで撮って沙織に見せながら、「どう？この子、かわいくない？」と無邪気に聞いてきた。沙織は少し困った顔をしながらも、亮介の嬉しそうな表情を見て、思わず笑ってしまった。

その数週間後、沙織もまた、道端で出会った野良猫の写真を撮って亮介に見せた。猫がのんびりと横たわる写真を見た亮介は、「確かに、猫もいいかもしれないな」と少しだけ心が揺れたが、やはり犬を飼いたいという気持ちは捨てきれなかった。

お互いが好きな動物を譲れないまま、しばらくの間、二人は動物を飼うことを諦めることにした。しかし、それでも日常の会話で「やっぱり犬がいいな」「猫も捨てがたいよね」というやり取りが続き、二人の間に微妙な緊張感が漂うようになっていった。

そんなある夜、沙織が仕事から帰宅すると、亮介が不機嫌そうにしていた。聞けば、亮介が飼っている友人の犬と遊ぶ約束が突然キャンセルになったのだという。「あの犬と遊べるのを楽しみにしてたのに…」と拗ねる亮介の姿を見て、沙織は少しだけ心が揺れた。

「ねぇ、やっぱり犬、飼ってみる？」と沙織が言うと、亮介の顔が一気に明るくなった。

「本当？でも、沙織は猫がいいって言ってたし…」

「うん、私も猫が好きだけど、あなたがそれだけ犬を大事に思ってるのを見てたら、私も犬を飼ってみたいと思うようになったの。」

その言葉を聞いた亮介は驚きながらも感謝の気持ちでいっぱいになり、翌日には早速動物の譲渡会に二人で足を運ぶことにした。譲渡会では、たくさんの犬や猫が新しい飼い主を待っており、二人はどの犬が自分たちに合うかじっくりと観察していた。

しかし、亮介が一匹の子犬に目を奪われているその隣で、沙織はふと目が合った小さな子猫に惹かれてしまう。どちらも譲れない気持ちで譲渡会を後にした二人は、その帰り道でついに、意外な結論に至った。

「ねぇ、沙織。いっそのこと、両方飼うのはどう？」

沙織は少し驚きながらも、亮介の提案に微笑んで頷いた。こうして二人は、犬と猫、両方を家族に迎え入れることにしたのだ。

家にやってきた子犬と子猫は、最初はお互いを警戒していたが、次第に仲良くなり、まるで兄弟のように寄り添って眠る姿を見せるようになった。亮介と沙織もまた、犬と猫の世話を通じて互いの価値観を少しずつ理解し、補い合うことを学んでいった。

犬は毎日のように散歩に出かけ、亮介がリードを握るその隣で、沙織も一緒に楽しそうに歩いていた。そして、家に帰ると、猫がのんびりとくつろぐリビングで、二人と二匹が一緒に過ごす平和なひと時が広がった。

いつか家族が増える未来も見据えつつ、犬と猫と共に二人の暮らしは続いていく。亮介と沙織は、お互いの違いを尊重しつつ、犬と猫が教えてくれた「共に生きること」の素晴らしさを、心から感じていた。